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邂逅③

 夕方六時、駅前の児童公園。約束の時刻よりも早く着いてしまった。真尋は、誰もいない公園の、錆びたブランコに腰を下ろした。キィ、キィ、と金属を軋ませてブランコを揺らす。   「ずいぶん早かったな」    五分遅れて、京太郎が来た。真尋が立とうとすると、待ったを掛けられる。「予約は七時からなんだ」と言って、京太郎もブランコに腰を下ろした。   「だったら六時待ち合わせにすんなよ」 「悪い悪い、予約がいっぱいだったんだ。悪いが少し付き合ってくれ」    キィ、キィ、とブランコが軋む。いつかの秋の日を思い出す。蝉は今が全盛期で、そこら中の樹にわんさか集まって鳴いている。   「曜介と会って、どうだった」    京太郎の落ち着いた声が、真尋の耳に届く。   「どうって、どうもしねぇよ」 「そうか」    子供の頃のようにはブランコを漕がない。いくら激しく漕いだって、空へ飛び立てるわけもない。   「いいのか、それで」 「いいって、何が」 「そろそろ、許してやってもいいんじゃないか」 「おれはあいつに腹立ててるわけじゃねぇよ」 「そうじゃない。自分を許してやれと言ってるんだ」    ブランコの鎖を握って、京太郎は真尋を見つめた。真尋は失笑した。   「馬鹿言ってんじゃねぇよ、今更」 「馬鹿ではない。十分苦しんだだろう。お前も、曜介も。もう十分なんじゃないか」 「……じゃあ言わせてもらうが、おれはこの前曜介と寝たぜ」 「……」 「はっ、呆れて声も出ねぇってか。幼馴染だろうが、何だろうが、もうどうだっていいんだ。あいつももう、おれと同じ穴の狢なんだよ」    自分の言葉で胸が抉れた。京太郎はブランコの鎖を握ったまま、力強く言う。   「よかったじゃないか」 「……はぁ? てめぇ、いよいよイカレたか。どこをどう聞いたらそんな感想になるんだよ」 「お前も曜介も、そうなることをずっと望んでいただろう。違うか?」 「……きめぇこと言ってんじゃねぇよ」 「キモくない。ちゃんと考えてみろ。ずっと昔から、お前達は思い合っていたんじゃないのか? 高校時代、いや、それよりもっと前から」 「……そんな、わけ……」    真尋はブランコの鎖を握りしめる。冷たい凹凸が掌に食い込んだ。   「仮に、そうだとしても……あいつは絶対に、おれを許さない。こんな、汚れちまった体を、抱きたいと思うわけがねぇ」 「だが、抱いたんだろう。お前の言う、汚れちまった体を」 「それは……」 「それが答えだろう。違うか?」 「……」 「曜介は、お前の過去を知っていて、それでもお前を抱いたんだろう。それが全てだ。それでも分からないなら、お前は馬鹿丸出しだ」 「クソ。馬鹿にすんなよ、高学歴が」 「確かにお前よりは高学歴だが」    重なり合い広がっていく蝉時雨が、耳鳴りのように耳元で騒いでいる。公園の入り口に、人影が見えた。  曜介だった。思わず立ち上がる真尋を、京太郎が制する。   「逃げるな。ちゃんと向き合え」 「てめぇ、騙したのか」 「騙したというと聞こえは悪いが、まぁそういうことだ。お前と曜介を引き合わせたかったんだ」 「なんで、そんなこと」 「お前らは過去に向き合うべきだからだ。あいつもお前も、自分自身を許すべきだからだ。楽になって、過去から自由になるべきだからだ。オレの言いたいこと、分かるだろう」 「わか、ら……」 「いいか。言いたいことも、言えなかったことも、隠さずに全部話すんだ。今、ここでだ。じゃなきゃ、一生このままだぞ。そんなんでいいのか」 「……」 「オレがここまでするのは、お前らが大切だからだ。たった三人の幼馴染だからだ。お前らがいつまでもそんなんじゃ、オレが悲しいからだ」 「っ……」    京太郎の真剣な瞳は何よりも雄弁だ。真尋はブランコに座り直す。京太郎が曜介を呼んだ。

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