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指輪③-♡
今、何時だろう。喉がカラカラだ。曜介が目を覚ますと、真尋も京太郎も眠り込んでいた。つけっぱなしの照明が眩しい。誰がつけたのか分からないがテレビもつけっぱなしで、いやにハイテンションな深夜の通販番組が垂れ流しになっている。リモコンを探してテレビを消せば、現れるのは静寂だ。いや、真尋の寝息と、京太郎のいびきだけだ。
とにかく喉が渇いて仕方ない。曜介は、ほとんど減っていない二リットルのウーロン茶をグラスに注いで、一気に飲んだ。少し酒が混じっているような気がした。
久しぶりに馬鹿騒ぎをしてしまった。酒覚えたての大学生じゃないんだから、と自嘲する。しかし楽しいのだから仕方ない。それに、学生の頃の方がもっと無茶をした。体力があったから、夜通し飲み明かすこともざらだった。
「んん……」
胎児のように丸まっている真尋が身動ぎする。寒いのだろうかと思い、掛けるものを探すが、生憎この家はいまだ引っ越し途中の様相であり、荷解きも済んでいなければ必要なあれこれが足りない状態なのだ。カーペットにローテーブル、テレビと空っぽの本棚が一つという、実に殺風景なリビングである。
「なぁ、寝るならベッド行こうぜ。連れてってやるから」
曜介は真尋を軽く揺さぶる。真尋はむずかるように眉間に皺を寄せ、いやいやと首を振った。
「寒いんじゃねぇの? 風邪引くぞ」
真尋の手の中で何かが光った。指輪を握ったまま眠ってしまったらしい。握りしめた指を一本ずつ開いて、曜介は指輪を手に取った。曜介が着けているのと同じデザインで、サイズは一回り小さい。裏側にはイニシャルと記念日が刻印され、誕生石が留められている。札束が羽を生やして飛び去ったが、一生に一度の買い物と思えば安いものだ。
「大事にしてくれんのは嬉しいけど、やっぱ薬指にはめたとこも見てぇよな」
曜介は真尋の左手を取る。手首を支えながら、薬指に指輪を滑らせた。小粒のダイヤモンドが不変の輝きを放つ。しなやかな指に、それはあまりにふさわしい。
「ん……よ、すけ……?」
唇に吸い寄せられるようにキスしていた。ダイヤの光る指を絡めて体を重ねる。寝起きの真尋はされるがままに曜介のキスを受け入れて、小さな舌をちろちろ動かす。曜介の背中に手を回してしがみつく。
「あっ、ぁ……」
曜介の手は自然と真尋の下着の中へ伸びていた。服は着たまま、兆し始めたそれを手探りで愛撫する。それはすぐに固くなり、曜介の掌を濡らした。
「あっ、やっ、だめ、ぁっ……」
吐息まじりの掠れ声が静寂に響く。微かな水音さえ耳につく。曜介は再びキスをして、真尋の口を塞いだ。重ねた手を握りしめる。指輪が視界の端に煌めいた。
右手がべったり汚れてしまった。寝起きの体を酷使された真尋がぐったりしているのをいいことに、曜介はそれを一口舐めた。味は、何とも言えない。旨くはない。ただ、少し後を引くような気もした。もう一舐めしようとして、視線に気付いた。
「……」
「……」
「……見てんじゃねぇよ」
「お前が勝手に見せてきたんだろうが」
「……今すぐ忘れろ」
「それができたら苦じゃないんだがな」
よっこいせ、と京太郎は体を起こした。ふう、と一つ息を吐く。
「親のそういうのを想像したくないように、幼馴染のそういうのも見たくはなかったな」
「……悪かったよ」
「しかもアレを舐めようとするなどと。貴様の趣味など知りたくなかった」
「言うなって」
「……」
「どこから見てた?」
「指輪をハメハメしたところからだ」
「ほとんど最初じゃねぇか! つかハメハメ言うな!」
「仕方ないだろう。起きるタイミングを逃したんだ。完全に逃したんだ。曜介がなんかイイ彼氏ムーブしてるな~、と思ってたら急におっ始まったんだ」
「だから言うなって!」
「静かにしろ。今一番飛びたいのは真尋だろう」
京太郎に言われ、曜介は口を噤んだ。静寂の中、真尋の寝息だけが聞こえている。
「……寝てる?」
「そうらしい」
「っぶねぇ~。京太郎に見られたとか知られたら半殺しじゃ済まねぇよ」
「ギリギリで生き延びたな」
本当に危機一髪であった。今ので一気に酔いが醒めた。
「しかしまぁ、うまくやれているようで何よりだ」
「これからだけどな。一緒に住むとなると、色々問題も出てくんだろ」
「喧嘩別れは二度とごめんだからな。頼むぞ」
「わーってるよ。おめーには相当世話かけちまったからな。そろそろ自立しねぇと。俺も、こいつも」
先程の行為の余韻に頬を火照らせながらも静かな寝息を立てている真尋を撫でて、曜介は言った。
「んじゃまぁ、せっかく起きたんだし、ベッドでもう一眠りしようぜ。こいつは俺が連れてくからよ」
「三人で寝られるのか?」
「ああ。ベッドだけは結構こだわって、でけぇの買ったんだ。狭いと色々困るっつーのが経験で分かったからな」
「ほう。あまり想像はしないでおこう」
「いや変な意味じゃねぇよ? いや変な意味も含まれるけどそれだけじゃねぇっつーか……」
リビングの電気を消し、寝室の明かりをつける。曜介は真尋をお姫様抱っこで抱き上げて、ベッドにそっと寝かせた。最後に寝室の照明を落とし、三人で川の字になって眠ったのだった。
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