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第七章 媚薬①
「曜ちゃん、曜ちゃん。見てよコレ」
授業を終えて職員室に戻ると、河北が待ち構えていた。ポケットから妖しい小瓶を取り出して、曜介のデスクに置く。
「……何これ」
「いやほら、あんま大きい声じゃ言えないんだけど、」
媚薬ってやつ?と河北は曜介に耳打ちした。
「この前彼女と使ってみたんだけど、これがなかなかの効き目でさ。まとめ買いがお得だってんで三個パックで買っちゃったんだけど、よく考えたらこれ、一回に数滴しか使わないもんだから、一瓶使い切るのにも相当時間かかるわけ。で、曜ちゃん、前に彼女とマンネリかもみたいな話してたじゃん? だからこれ、よかったら試しにどうかなーって」
「……」
確かに、マンネリかもしれない、というような話はした。同棲生活はもちろん楽しいが、以前と比べて刺激は減ったように思う。家の中で全てが完結するので、元々多くなかったデートの回数も減った。わざわざ出かけなくても相手に会えるというのは、メリットばかりではないらしい。
「でも、だからってなぁ」
「大丈夫だって、国産だし。オレもこの通りピンピンしてるしさ。まぁほら、騙されたと思って試してみなって」
というわけで、貰ってきてしまった。妖しい小瓶をテーブルに置くと、真尋は怪訝な顔をする。
「何だよ、これ」
「それがかくかくしかじかで」
「てめー、河北にどこまで喋ってんだよ」
「いや違うよ? お前のこととか、そもそも男と付き合ってるとかは全然言ってないけど、ほら、これのせいで色々とさ」
曜介が左手に目をやると、真尋はなるほどと頷いた。
「だから指輪なんてするもんじゃねぇって」
「だって見せびらかしたいじゃん。俺にはこういうの交換する相手がいますよーってのをさぁ。生憎、お前は着けてくれねぇけど」
「悪かったな」
「じゃなくて、これ、せっかく貰ったんだし、試してみねぇ?」
曜介は小瓶を軽く振る。ちゃぷ、と液体が跳ねた。
「……見るからに怪しいだろ」
「でも一応国産らしいし」
「国産だったら安全なのかよ」
「でもほら、河北も彼女も元気に過ごしてるし」
「大体、こんなもんがまともに作用するとは思えねぇ。どうせただの水とかだろ」
「それは俺も思ったけど」
「こんなの、ただのジョークグッズだ」
「でもさ、だからこそ試してみてもいいんじゃねぇの?」
「……」
真尋はじっと小瓶を睨む。真尋だって、曜介がそう感じているように、この生活に多少のマンネリを覚えているに違いないのだ。最後の一押しに、曜介は小瓶のキャップを捻った。
立ち上るのは、どこかエキゾチックな甘い香り。どうやらただの水ではないらしい。真尋は席を立ち、グラスに水道水を汲んだ。
「……いいんだな?」
「……効くわけねぇよ」
「まぁまぁ、物は試しだから」
キャップがスポイトになっており、そのまま吸い上げることができる。紫の瓶に入っていたため分からなかったが、中身は無色透明だ。スポイトで吸い上げて、グラスに数滴垂らす。華やかで、ちょっとばかりスパイシーな香りが、ふわりと広がった。
「じゃあ、乾杯」
「ああ」
グラスを軽く触れ合わせて、一息に飲み干した。
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