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旅路②-♡♡

「散歩とか、どう?」    ドアを開けた時、真尋は既に寝る支度をしていたというのに、曜介はつい、事前に用意していた台詞を口にしてしまった。真尋はきょとんと目を丸くしたが、「ちょっと待て」と言ってカーディガンを羽織り、スリッパから靴に履き替えてくれた。  真夜中の海。当然無人だ。昼間、修学旅行生はもちろん、多くの観光客で賑わっていた海に、今は真尋と二人きりである。  散歩に連れ出したはいいものの、これといってプランがあるわけではない。ただ、夜の海を真尋と歩きたかっただけだ。  砂を踏みしめる二人の足音。砂浜に残る二人の足跡。波が攫って掻き消していくが、足跡は再び続いていく。   「見ろ、曜介」    真尋は突然、足を止めてしゃがみ込んだ。砂浜から何かを拾い上げる。白い大きな貝殻だった。真尋は、それをそっと耳に当てる。「こうすると、海の音がするんだぜ」と言って笑った。   「……うん」 「何だよ、眠いのか」 「いや……好きだなぁって」 「……」    心の声が漏れていた。真尋が照れて黙り込むので、曜介も照れくさくなってくる。   「いや、悪い、急に。でも俺、お前のそういうとこ、すげぇ好き」 「分かったから、もう黙れ……」 「……なぁ、覚えてるか? 十年前、高二の修学旅行で、あの時も俺達、今みたいに……」    ホテルの部屋を抜け出して、砂浜で二人、海を見ていた。月を見ていた。星を見ていた。冴えた光が水面を照らし、澄んだ波が渚を濡らして、弾けた雫が青く煌めく。寄せては返す、波の音が静寂に溶ける。   「忘れたことなんか、ねぇよ」    あの頃と同じ、真尋の黒く澄んだ瞳は、真っ直ぐに曜介を見つめていた。ただ曜介の姿だけを、その瞳に映していた。  曜介は真尋の手を握る。真尋も曜介の手を握る。唯一、あの頃と変わったことがあるとするならば、それは、互いの心が通じているということだろう。  どちらからともなく、口づけを交わした。波の音が、唇の触れる音を隠してくれた。全てに怯え、手をこまねいていたあの頃、美しく幸福なだけのキスがあることを、曜介は知ろうともしなかった。    そうだ。あの頃の曜介は、全てを分かった気でいながら、その実、何も理解できていなかった。真尋の哀しい目の色や、視線の先に何があるのか、曜介はずっと気付けずにいた。鮮やかな熱帯魚を前にして何を思うのか、その思考の深淵を、覗き見ることさえできずにいた。  昼間訪れた水族館。十年前にも訪れた場所だ。あの頃と変わらない水槽の前で、あの頃と同じように真剣に、真尋は魚を眺めていた。だが、その眼差しはあの頃のままではない。優しい光を宿している。  あの頃と地続きの今。だが、全てがあの頃のままではない。例えば、白い砂浜に残る足跡。澄んだ渚に溶け込む微笑み。真昼の輝く日差しの中、こちらを見つめる眼差しだとか。そんなもの全て、十代の曜介には想像もできなかったことだ。  それら全てが、今は懐の中にある。手を伸ばせば届く距離。もう触れることを躊躇わない。大切に大切に抱きしめて、もう決して離さない。   「っ、そんながっつくな」 「ムリ。あんなかわいいこと言われて、ほっとけるかよ」    海辺でキスをした。真尋が口を開けて誘うから、遠慮なく舌をねじ込んだ。唾液の絡む音が響いて、波にも隠せそうにない。このまま溶け合ってしまいたくて、カーディガンのボタンを外す。「ここじゃいやだ」と、真尋が頬を赤らめる。   「続きは部屋がいい」    波に攫われそうな声で呟く。月影が瞳を濡らす。  そんなわけで、急いでホテルの部屋へと戻り、靴を脱ぐのももどかしく、勢いのままベッドへなだれ込んだのだった。   「かわいいって、別に普通の……」 「いやいや、すげぇかわいかったよ? キュンって来たよ。別にこういうつもりじゃなかったけど、お前がその気なら俺もがんばるからさ」 「ちがっ……おれは、お前がそのつもりなんだと思って……!」 「うんうん。元は違ったけど、今は完全にそういう気分だから、大丈夫大丈夫」 「なにが、大丈夫だ……っ」    既にボタンの外れていたカーディガンを脱がす。現れるのは、アメニティのナイトウェアだ。薄い生地で、体のラインがよく分かる。上に一枚羽織っていたとはいえ、こんな恰好で外に出したのは間違いだった。   「っ……おい、妙な触り方すんな」 「別に普通だろ? それとも、触られただけで感じちゃった?」 「てめ、また調子のって……」 「調子にも乗るだろ。お前がここにいてくれるんだもん」 「っ……」    真尋が照れてそっぽを向く。隙だらけの胸元を弄った。二つの小さな突起がぷっくり膨れて、薄布を健気に押し上げている。   「すげぇ、勃起してんの丸分かり」 「やっ、……ぅ、やめ」 「でも好きだろ? こーやって、服の上からコリコリされんの」 「あっ、ぁ……、やっ……」    布越しに、二つの尖りを指先で引っ掻く。直接触れるよりも、まずは間接的に、布を一枚噛ませた絶妙な力加減でいじめられるのが、特に真尋の好みだった。もどかしそうに身を捩り、誘うように胸を反らす。   「気持ちい? どんどん固くなってら」 「っ、いつまでも、あそんでんじゃ……」 「遊んでねぇよ。三日ぶりだし、丁寧にしねぇとな」 「ンっ、……っ」    曜介が唇を寄せれば、真尋も素直に口を開けて応えてくれる。ぴちゃぴちゃとあえて音を立てて舌を擦り合わせる。舌先で突つくようにして感触を楽しむ。そうしながら乳首も甘やかしてあげると、さらに敏感な反応が返ってくる。普段あまり着ることのない、サテンのような滑らかな生地が、殊更に気持ちいいらしい。   「はーい、じゃあ足開いてねー」 「あっ、こら……」    ワンピースタイプのナイトウェア。その長い裾を捲り上げる。剥き出しになった太腿を指先で辿り、下着に手をかけ脱がしてしまう。露わになった中心は蜜を零し、後ろの穴まで濡らしている。そのことを揶揄すれば、真尋は悔しそうな顔をした。   「でも、逆にちょうどいいか。ローションとか持ってきてねぇし」    曜介は、とろとろと溢れてくる蜜を指に取り、はしたなくヒクつく蕾に塗り込んだ。指先を押し込むと、その異物感に真尋は顔を顰めたが、それもほんの一瞬のことであり、すぐに馴染んだ。  指を抜き差ししていやらしい蕾を擦ってやれば、茎は一層固く尖り、しとどに蜜を零して濡れる。蜜が溢れれば溢れるほど、さらに滑らかに指を出し入れすることができ、するとまたたっぷりと蜜が溢れてきて、まるで無限に続く永久機関だ。  くちゅくちゅ、ぴちゃぴちゃと雫が跳ねる。ローションも使っていないのに、窓の外から聞こえる波の音よりも鮮明に、淫靡な水音が響いている。  しばらくは形ばかりの抵抗をしていた真尋だが、いまやそんな余裕もなく、声を抑えるのに必死だった。口元を押さえて、時折、奥へと誘うように腰をくねらす。あられもなく大股を開き、恥ずべき部分が丸見えになっていることには、気が回らないようだった。  曜介も曜介で真剣だ。旅先で血を見たくはない。余裕がない中でも、優しく抱きたい。時折唾液を垂らしながら、真尋の体を開いていく。普段から抱かれ慣れている体とはいえ、たった三日でも間が空けば、相応の準備は必要になってくる。   「よ、すけっ……」    真尋が手を伸ばしてくるので、指を絡めて握りしめた。指にキスをすれば、素直な穴がキュンと締まる。   「ぁ、そこ……、そこだめっ」 「ここだろ?」 「やっ、……だめ、だめだ……っ」 「いいの間違いじゃねぇの」    三本の指をぐっぽり咥え込んでいた。ただ闇雲に解しているようでいて、曜介の指は的確に真尋の弱点を捉えている。会陰の裏側にある、僅かな膨らみ。前立腺と呼ばれるそこは、男のGスポットでもあるらしい。らしいというのは、曜介自身は経験したことがないからだ。しかし、真尋の乱れ具合を見るに、おそらく事実なのだろう。  たっぷりの蜜を塗り込みながら揉みしだき、ノックするように叩いてみたり、甘やかすようにくすぐってみたり。刺激に応じて丸く膨らんで、饒舌に快感を訴える。そして、前立腺がぷくっと膨れれば膨れるほど、真尋の喘ぎは途切れ途切れに、余裕も何もなくなってくる。   「ぁ、……っぐ、いく、いくっ────」    握りしめた曜介の手に爪を立てて、ぴゅる、と白濁を飛ばした。ビクビクと引き攣れる白い腹を濡らす。淫らな穴もまた曜介の指を食いしめて、引き抜くと蜜を零して切なげに震えた。  曜介は、ふやけた指を真尋の太腿に擦り、服を脱ぎ捨てた。絶頂の余韻に浸り、はしたなく大股を開いたまま胸を上下させている真尋を抱き寄せ、一息に貫いた。   「んぁ゛っっ!」    その衝撃で、またも白濁が散る。一度目よりも少し薄い。曜介に揺さぶられながら、真尋はいやいやとかぶりを振った。   「なーに。一回イッたくらいでへばるんじゃねぇぞ。こっからが本番だろうが」 「ちがっ、まっ……とまっ、て」 「ここまで来て止まれると思うか? ぜってぇームリ!」 「だ、って、ぱじゃま、よごれっ……!」    真尋は震える手でパジャマの裾を握る。万歳して脱ごうとするが、なかなかうまくいかない。確かに、曜介は自前のジャージだったので汚そうが何しようがどうでもいいのだが、アメニティの寝巻を精液で汚すのはさすがにまずい。汗ならまだしも、精液はかなりまずい。頭の片隅に辛うじて残った理性を総動員し、曜介は真尋の衣類を剥ぎ取った。   「ほら、これでいいかよ」 「ん……」    惚れ惚れするような美しい裸体が、シーツの海に横たわる。真尋自身も、うっとりとして横たわる。自ら足を開いて、曜介を迎え入れる。   「なぁ、はやく……」 「っ……」    もはや我慢などできようはずもない。理性の残滓が散り散りになって消え去った。

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