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第18話

 それから毎日、エルヴィンはルーク専属の治癒師としての職務を(まっと)うした。  ルークの回復力はさすが見事なもので、目に見える身体の傷はすっかり癒え、上級治癒師のラルゴたちとの話し合いの上、ついにルークに外出を許すことになった。  エルヴィンは今からそのことをルークに報告しにいくところだ。ルークはずっと城から出たがっていたからすごく喜ぶに違いない。外出できることを告げたときの、ルークの喜ぶ顔を思い浮かべただけでエルヴィンはニヤニヤしてしまう。 「おはようございます」  エルヴィンはルークの従者たちに挨拶をして部屋の中に入る。最近、ルークの部屋に入るのに、エルヴィンは顔パスになってきた。どこの誰と名乗る必要もなく、従者たちも「エルヴィンさま、おはようございます」と当然のように返事を返してくれる。 「殿下、薬をお持ちいたしました」  エルヴィンはルークの寝室の扉を二度叩いて中に入る。寝室ではルークがベッドの頭側の板を背に寄りかかり、静かに書物を読んでいた。 「殿下、具合はいかがですか?」  エルヴィンはルークのそばに寄り、ベッドのすぐそばのテーブルに液薬をおいた。そのあとルークの顔をじっと覗き込む。ルークは血色もよく、元気そうだ。 「熱は……ございませんね」  エルヴィンはルークの額に触れ、そのあと首すじにも触れる。大丈夫。熱が出たのは最初の数日間だけのようだ。 「脈を診させていただきます」  今度はルークの手を取り、手首から血の巡りの様子を確認する。こちらも特に問題ない。 「……どうだ?」  ルークはエルヴィンの反応を不安げに待っている。ルークが何を期待しているかエルヴィンにはわかっている。ルークはここのところ「外出したい」とばかり言っていた。  「殿下。これなら問題ありません。もう外出なさっても結構ですよ」  ルークにそれを告げると、ルークの顔が華やいだ。 「本当かっ?」 「はい。治癒師たちの総意です。今日の視診と触診で問題なければ、殿下に外出をしてもいいと伝えようという話になりました」 「それは嬉しいな。この日をずっと待っていたのだ」  ルークはベッドからゆっくりと立ち上がる。 「エルヴィン。今日はデートしよう」 「は……っ?」 「すぐに支度をする。エルヴィンも部屋に戻って支度をしてきなさい」 「殿下、な、な、何をおっしゃるのですかっ?」 「案ずるな。馬車で移動するから」 「い、いえっ。問題はそちらではなく……」  エルヴィンが気にしているのは移動手段じゃない。なぜ突然デートをすることになっているのか、ということだ。 「ああ。なるほど。エルヴィンにとってデートの相手が俺では不服、ということか?」 「いっ、いいいいえっ! 断じてそのようなことはっ!」  エルヴィンは慌てて否定する。
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