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第19話

「じゃあいいではないか。ずっとエルヴィンに贈り物がしたかった。そう思っていたのにずっと外出の許可が下りなかったから、我慢していたのだ。やっと出られるようになったのに、今度はエルヴィンが俺を避けるようなことを言うのか?」 「いいー-っ? そんなことは致しませんよ!」  まいった。ルークはエルヴィンを婚約者だと思っているからデートなんぞに誘ってくるのだ。  最初は日に何度も治癒師としてルークのもとを訪ねていたが、最近は朝と夜の二回になっていた。このままルークが良くなるにつれて、会う頻度は少なくなると思っていたのに、まさか外出できるほど元気になった途端、デートに誘われることになるとは。 「では行こう。エルヴィンと一日でも早くデートに行きたかったから治療を頑張ったのだ。デートが嫌なら専属治癒師として一緒に来てくれ。とにかく理由はなんでもいいから一緒に行こう、エルヴィン」  なんて強引な……。ここまで言われたら断りづらいじゃないか。 「わかりました。では、友人として殿下と一緒にまいります」 「友人っ?」  思ってもみない答えだったのか、ルークは驚きの声を上げた。 「はい。友人です。今日の僕は心置きなく話ができる、殿下の友人。それでよろしいですか?」  これはエルヴィンなりの心の線引きだ。  婚約者だと言われると切なくなるし、治癒師と言われると仕事的になってしまう。  だから友人だ。友人だったら、気兼ねなくルークとのおでかけを楽しむことができると思ったから。 「わかった。では我が友人エルヴィン。今日一日、俺に付き合ってくれないか?」 「はい。喜んでお供いたします」  エルヴィンは笑顔を返す。友人だと思った途端に気持ちが楽になった。  そう、ルークに対して恋慕の情はなく、そこにあるのは友情だ。 (殿下は友達、殿下は友達……)  エルヴィンはそのように何度も自分に言い聞かせる。  これで大丈夫、と思ったとき、いきなりルークがエルヴィンの目の前で着ていた寝間着をバッと勢いよく脱いだ。 「わっ……!」  急に目の前に現れた鍛え上げられた肉体美に、エルヴィンは顔を真っ赤にする。  なんだこの立派な身体は。細腕のエルヴィンとはくらべものにならない逞しさだ。ルークのしなやかな身体はいつ見ても惚れ惚れする。  あの身体に抱きしめられたら……肌と肌を合わせて温もりを感じられたなら……。 「エルヴィン」 「ひゃいっ!」  上半身裸のルークがなんの気なしにエルヴィンに話しかけてくるから、エルヴィンはびっくりして変な声を出す。 「準備ができたらエルヴィンを迎えに行く。それでよいな?」 「は、は、は、はい……っ」  どうしよう。じっくり見てはいけないと思うのに、ついルークの裸体に視線がいってしまう。 「どうした……? 友達なのだから、着替えくらい構わんだろう?」 「おっしゃるとおりです……ですがっ、あの、僕も支度してきますっ!」  エルヴィンはサッとお辞儀をして、その場からものすごい逃げ足で逃げた。ルークの部屋を出てしばらく走り、角を曲がったあたりでやっと歩き始めた。  またやってしまった……。  いきなり逃げたらルークに失礼だ。それでも恥ずかしくてあの場にいられなかった。 「はぁ、もう心臓に悪いよ……」  ルークもルークだ。  支度を急いでいたとはいえ、いきなり服を脱ぎ出すなんて!  男同士だから構わないとでもルークは思ったのだろうか。たしかに、友達同士ならあまり気にしないことかもしれないが、エルヴィンは完全に意識してしまっていた。  こんな調子でルークと友達デートなんてできるのだろうか。  先が思いやられるが、心のどこかでルークとのデートにワクワクしている自分がいる。王弟のルークが街歩きをすること自体が珍しいことなのだ。その姿を見られるだけでも新鮮なのに、さらにその隣を歩くことをルークが許してくれるなんて。 「いいよね、友達としてなら」  このお出かけに特別な意味などない。ただ、友達として遊びに行くなら本当の婚約者のアイルも気にしないだろう。
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