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第33話

「大嵐のとき、生きることを諦めようとした俺を引っ張り上げ、小さな教会でひと晩中そばにいてくれたのはお前だろう?」  ルークの真摯な眼差しに胸が熱くなる。  あのときの狼獣人はルークだった。そしてルークはあの日のことをずっと覚えていてくれたのだ。 「はい。そうです。でも信じられませんっ、あのときの意気地なしの狼獣人が殿下だったなんて!」  間違いじゃないと思うが、今の立派なルークからは想像できない。あのとき出会った狼獣人は弱くて情けなく思えたからだ。 「意気地なし……?」  ルークの眉がピクリと動いた。 「そうです。びしょ濡れだし、ただのノラ狼獣人かと。黒狼の威厳もオーラもなかったから、全然気がつきませんでしたよ!」 「この俺を、ノラ狼呼ばわりするのか?」 「あっ……!」  正直に言い過ぎた。ただ「あのときは殿下だと気がつかなかった」とだけ言えばよかったのに、余計な悪口をペラペラと……。 「そうだ。あのときの俺は意気地なしのノラ狼だった。それを変えてくれたのは他でもないエルヴィンだ」  ルークはエルヴィンをそっと抱きしめる。 「エルヴィン、あのとき俺を救ってくれてありがとう。そして二度め、瀕死の俺を助けてくれた。俺はエルヴィンがいないと生きていけないよ」 「で、殿下もったいないお言葉です……」  嬉しい。ルークに必要としてもらえることが嬉しい。 「エルヴィン。俺は生涯のすべてをお前に捧げると約束する。だから俺の番になってくれ」  宝石のような金色の双眼がエルヴィンを捉えて離さない。この優しくも獰猛な目で求められたら逃れることなどできるはずがない。  ルークと番になる。それはエルヴィンが願ってもやまないことだ。  まさか、こんなことが起きるとは想像すらしなかった。  ずっと諦めていた。ルークは記憶違いを起こしているのだから、ルークの言葉は全部偽物だと思っていた。  だが、違ったのだ。ルークは記憶違いでもなんでもなくて、少しの誤解があっただけ。  ルークは、エルヴィンを番にすることを心から望んでくれている。 「ぼ、僕なんかでよければ……」  頷きながらも嬉しくて涙が溢れそうになる。ルークとずっと一緒にいられる。しかもルークの妃としてだ。これ以上の幸せはないというくらいに幸せだ。  大好きな人との幸せがいきなり降ってきた。  信じられないことに、ルークは全部覚えていたのだ。十年前、大嵐の夜のことも、瀕死の重症で動けなくなっていたときにエルヴィンがしたことも、全部、記憶していた。  そして、本気でエルヴィンを自分の妃として迎えることを望んでくれている。  エルヴィンのことを愛おしいと言って抱きしめてくれたときも、エルヴィンを妃に迎える日が楽しみだと言ってくれたときも、すべてルークの心からの言葉だった。  添い寝のときの甘いルークも、エルヴィンをデートに誘ってくれたときも、好きだという金色の眼差しも、夕刻の情熱的なキスも、全部、ルークの本心からの行動だった。  こんな、夢みたいな奇跡があるのだろうか。 「エルヴィン。一日でも早く婚礼を挙げよう。俺はお前のことが好きで好きでたまらない。ずっと好きだったが、今日またエルヴィンを好きになった。俺のために命をかけるとは、お前は……」  ルークに強く抱きしめられる。相変わらずルークの力は怪力で、骨がミシミシ鳴りそうなくらいだ。 「くっ、苦し……」 「ああ、エルヴィン! 無事でよかった。お前の身に何かあったら俺は、俺は……」  ルークはさらに強く抱きしめてくる。 「うう……。で、殿下……」  エルヴィンの意識が若干遠のいてきた。狼獣人は猫獣人がヤワなことを知らないのだろうか。呼吸が止まりそうなほど強く求められたら身体がもたない。  その後、「殿下、力を加減してください、エルヴィンさまが潰れてしまいますっ」とハーデンが助けに来るまでエルヴィンは強く強くルークに抱きしめられた。

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