5 / 21

* * *

翌日の宵の口。 ガイを伴って後宮のアロを訪ねると、彼は寝所で休んでいた。 従者達に聞くと、昼の間は王の散歩についていき、風呂を共にしたという。 寝床から「何をしにいらしたんですか」と素っ気なく迎えてくれたアロが、嫌そうな一瞥をくれて向こうに寝返りを打ったのは、既に化粧を落としていたからだろう。 「見舞いに参りました」 「…病では、ありませんのでーーー」 「そう言わずに、栄養がつく物と、フルーツを持ってきました」 「…恐れ入ります、ダイニングの方に置いておいてください」 「召し上がりませんか?」 「もう、夕食をいただきましたので」 「そうですか、では明日にでも…それと、これを持ってきました」 「…」 ガイから受け取った包みを寝台に置いても、アロはこちらを向こうとしない。 「詫びの品です、一昨日汚してしまった衣ともう2着、よかったら着てください」 「…2着?」 アロは煩わしそうに体を起こすと、顔を伏せたまま手繰り寄せた包みを開いた。 空色の衣と、青緑と濃紺の男物の衣を見たアロは、軽く顔を起こして「どういうことでしょう」と困惑した。 普段、彼が男物を着て王に随行することはない。 「あなたに似合う色です、室内着にでもしてください」 「こんなに、上等な物を…?」 「仕方がありません、気にせず役立てていただければ」 「…殿下」 苦しそうに俺を見上げたアロは、ちらりとガイを伺うとその場で平伏した。 「お気遣い、痛み入ります…」 「顔を上げてーーー」 「しかし」 「…?」 「祝宴の時より、感謝してもしきれないことばかりですが、もうこれ以上…お気遣いは無用でございます…」 「…そうですか、では、帰ります」 寝所を出ると、後ろでアロが寝台を出る気配がした。 館の入口まで俺達に付き従い、「ご足労ありがとうございました」と深く頭を下げたアロを振り返ると、彼は困りきった顔をさっと伏せて中に戻った。 後宮を出た途端、ガイは「気に食わない、失礼なヤツです」と不満を露わにした。 「かわいいじゃん、わざわざ見送ってくれた」 「貴方のご身分を考えれば当然のことです」 「そう?」 「しかし、どうしてあんなに下手(したて)に?」 「別に、敬意を払ってるだけ」 「まるで国賓のようです」 「彼は優秀な戦士で医官だった類(たぐい)まれなる男だ、あんなとこで腐らせていい人材じゃないーーー」 「初耳です、あなたは大事なことを仰らない」 「沈黙は金なり」 「ではなぜ、彼は王にーーー」 「囲われたか?見ての通り単に見た目だ、それもただ美形ってだけじゃない、気丈で屈服させたくなる」 「貴方も大層お気に召す程度の」 「大層な」 「…まさか、本気で横恋慕でも?」 「掻っ攫(さら)ったのは王の方だ」 「…ところで、随分とあの奴隷に嫌われているようですがーーー」 「奴隷って言うのやめない?」 「…あの、男に」 「化粧を落としてた、顔を見せたくないんだ、お前がいたしな」 「私のせいですか!?」 「もうお前を連れてくのはやめようーーー」 「もう来るなと言ってましたが?」 「話し相手でもいなきゃつまんないだろ」 「余計なお世話かもしれません」 「あいつもそう言ってたよ」 「…あの男を困らせて楽しんでいるんですね?」 「まさか」 「貴方を本当に避けたがっているように見えました」 「俺と仲良くして王の機嫌を損ねたくないんだろ」 「………」 「しばらく、遠くから眺めとくだけにするよ」 「くれぐれも穏便に」と顔をしかめたガイは、やれやれと溜め息をついた。

ともだちにシェアしよう!