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* * *
それから数日間。
後宮で見かけるアロの顔色は悪くなく、王との行為で問題が生じることも、徘徊を聞くこともなかった。
そして、翌週になっても異変はなく、これでひと段落したのだと思った矢先のこと。再び、アロが突然倒れたとの報告が入った。
日頃、四六時中といかずとも、機会があれば細心の注意を払ってアロを観察していた俺とガイは、想定外のことに驚いた。
「体に対処できていて、他に何かあるなら、心、でしょうか…」
手土産を箱に詰めたガイが、重々しく呟いた。
俺が行けない時でもこまめに後宮へ様子を見に行っている彼は、今ではすっかりアロの管理人になっていた。
「こころ、か…」
「…」
「…間(ま)が、難しい」
「何がですか?」
「いつかは、俺のものにするつもりだ」
「何をです?」
「あの男だ」
「……さようですか」
わかっていただろうが、ガイは渋い顔をした。
「なんだ」
「…王がそう簡単に手放すでしょうか」
「いずれは飽きる、その頃合いを見計らって動くつもりでいる」
「穏便に」
「そうだ…とにかく、なんかいい薬、あるだろうか?」
「わかりません、少し調べてみます」
「助かる、頼んだ」
後宮に向かいながら、胸の内はどこか釈然としなかった。
王との行為で病むのならば、とっくにそれは起きていてもおかしくない。考え過ぎで、少し疲れが溜まったか、食当たり程度ならいい。
とにかく、できる限り心安らかでいてほしい。
身勝手にもそう願いながら、後宮に足を踏み入れたのは日が暮れた頃合い。アロの館を訪ねると、夕食後の従者達が片付けと就寝の準備をしていた。
アロの詳細を聞けば、午後の遅い時刻、いつものように王と風呂を終えた後で、突然倒れたと言う。
寝所で臥せっているアロは化粧を落としておらず、薄衣のままだった。
「邪魔するぞ、大丈夫か…?」
手土産を寝台に置くと、アロはゆっくりと体を起こした。
「ご足労、ありがとうございます…」
ほんの一瞬、微笑みに似た影が浮かんだ気がしたその口元に、違和感を覚える。
これまで、仮面の顔の涼しい作り笑いは知っていても、自然な笑みらしい笑みは見たことはなかったが、彼の身の上を考えれば、そんなものは拝めるはずも期待しているわけでもない。
「…心配した、どこか具合が悪いのか?」
荷物を開封したアロは、また、微かな笑みを口元に浮かべたように見えた。
「別に、何かを持ってこなければいけないわけではないのに…」
「したくてやってる」
「…貴方の衣で溢れてしまいます」
新たな衣を確認した彼は、苦笑した。
苦笑いでも、自然に見える笑みについ目を奪われながら、どんな心境の変化かと思う。
「なんだ、宝飾品のほうが嬉しいかーーー」
「そういった物に興味はありません……先日のモモ、とても美味(おい)しゅうございました」
「よかった、また持ってこよう、今日は南方のパインを持ってきた、あっちにある」
「ありがとうございます」
「…それで、具合は?」
「…何も、平気です」
「平気?」
「ええ、何もありません…」
アロは確かに、ふわ、と微笑むと、寝台を降りた。
ワードローブに向かう足取りに、不安なところはない。
「…何も??」
「はい」
「じゃあ、なんで…」
「…仮病でも使わないと、貴方は来てくださらない」
増えた衣を丁寧にしまいながらさらりと述べた声は、冗談にしては淡々として、挑発的にすら聞こえた。
「………」
「…これが好きです」
青緑の衣を携えて俺の前に立ったアロは、「着替えを手伝ってください」とふてぶてしく俺を見上げた。
拗ねたような上目に、ランプの明かりがちらちらと揺れている。
「…」
「…俺と顔を合わせたくないもんだと思ってた」
「……」
彼は、苦々しいような、なんとも言い難い複雑な顔を背けた。
「…喜んで」
腹まではだけたアロの薄衣を、女のような撫で肩から腕へと滑り落とした。
「俺を見ろ」
ひっそりと息を飲んだ顎を掬(すく)い、上向かせた顔を覗きながら、手をあてがった胸は熱かった。
治りかけの傷をなぞる指を右へずらし、手に収めた乳房を揉みしだくと、アロは歪めた目を閉じた。
「俺を、見るんだ」
「…っ」
怯(ひる)んだ目を見据えながら。膨れた乳首を練って引っ張り、硬く尖った肉をしごいていれば、一文字に結んだ唇が解(と)けて、抑えた吐息が俺の首筋をくすぐり始める。
「…っ」
もう片方を弄(いじく)りながら。胸から腹へ擦(さす)り下り、前布を剥いだ股の柔らかな出っ張りを揉むと、声を飲んだ吐息が「は」と漏れた。
「自慰をしてるか」
「……はい」
あの夜と同じように。熱く張るそこを揉んでやり、摘み上げた肉を捏ねていれば、目を泳がせたアロは、「あっ」と甘く惑う唇を噛んだ。
「俺だ、俺を見ろ…」
恥じらうまつ毛がうろたえて、アンバーの瞳に猥雑な影を落とす。紅を引いた唇と白い歯列の奥で、乾いた舌が焦れている。
あの夜も、こんな表情(かお)をしていたのか。もっと見たいと思うほど、肚(はら)の底に下卑た熱が集まった。
「あ…」
股間を弄(いじく)る手の脇で腿がぶるぶると震え、乳を絞っていた手で抱いた体は、薄布越しにも汗ばんでいる。乱れる息を隠せなくなった胸も、オレンジの薄明かりを浴びて淫靡な光沢に濡れていた。
「あ、ああ…」
切なく緩む表情(かお)を眺めながら、硬く膨れた男根の底を揉みしごき、戦慄(わなな)く尻肉を潰すつもりで揉む。
「ああ、ああ…っ」
押し捏ねるそこに熱い汁が滲み出し、ついに自ら腰を振って快感を求め始めた彼にたまらぬ欲情を覚えた俺は、その体を寝台に組み敷いていた。
「あっ!?」
驚きと困惑を偽る目の奥に、不安と期待が見え隠れしている。
「俺に下手な色目を使うな…」
「…っ!?」
「お前は、そんな者じゃないだろ…」
「…っ」
哀れに歪んだ顔を睨(ね)めながら、舐め回した胸も熱い。しゃぶる乳房は女のように柔く、噛んで吸う乳首は転がす舌で硬くなる。
「…あ、ア、お、おゆるし、くださいーーー」
「自分を貶(おとし)めてまで”恥”を晒したいのか?」
肋(あばら)を吸い、腹を吸い、開いた脚を押し上げて眼前に晒し出した陰部は、焦れた熱を帯びていた。
「ああ、あーさーさまっ、おゆるしくださいっーーー」
「名前を呼ぶな…」
ふっくらと盛った恥丘は白く、つるりと丸い。
王のためか”これ”を期待してか、涼しい顔で毛を剃り落とされる男を思うとペニスが猛る。
頂(いただき)には剥き出しの桃色の肉。奪われた男根と袋の痕はぎざぎざと歪(いびつ)で、男根の名残が赤く腫れている。
「…勃起、してるか?」
「…はい」
伸ばした舌で傷と生肌の境をぐるりと一周しただけで、抱えた腰が「あう」と揺れる。
小便の刺激臭と僅かに酸っぱい卑猥な臭いは、女のそこと変わらない。
「臭いぞ、男を誘うニオイがする…」
「あ、あ、おゆるしくだーーー」
「下品で腹が立つ…」
男根の底を摘み出すと、中央の凹みに汁が滲む。
「あ、ああっ…」
「痛かったか…」
薄皮が覆う肉に舌を這わせれば、アロは腰をくねらせて「ああ」と吠えた。
「声を抑えろ」
「あっ…あ…」
犬のように舐めてやるそこは滑らかで酷く熱く、時々秘めた内がひくりと律動する。淫肉を舐(ねぶ)り回し、割れ目に滲むしょっぱい汁を吸い出すと、口を押さえた彼は胸や腹の肉をいやらしく震わせた。
「ここはどうだ?」
強く割り開いた尿の口は鮮やかな桃色で、女の襞と大差ない。
固めた舌を捩じ込んで、淫らに収縮する尿道を拡げるつもりで穿(ほじく)り返す。
「ああ、ああ、やめっ…あ…あああ、いいっ…」
啜り泣くようなよがり声を聞きながら、よじれる体と溶けていく目を目で犯す。
「いいのか悪いのか、どっちだーーー」
「ああ、ああ、おねがいします、もっと…お…っ」
男根を満たすはずの血が渦を巻くそこは、粘膜が擦れるたびにひくひくと憤(むずか)ってよがる。
行き場のない快楽を与えるのも拷問に等しいのかと思えば、どす黒い劣情がこみ上げた。
「あは、いいっ…お、アッ、そこお、あ、ア…」
がくがくと腰を振りながら女のように鳴くこの男を、このまま貪り食って堕としてしまいたい衝動を堪(こら)えて、体を離す。
寝台を降りて小物棚から淫具を取って戻ると、アロは自ら脚を抱えて俺を待ち詫びていた。
「あ…は、あ、あーさーさまっ、ここが、あつい、あついのです…」
震える指で割り広げたそこは濡れて光り、彼が呻くたびに卑猥な汁を滲ませている。
「…名前を呼ぶなと言った」
張形の先端をしゃぶると、僅かに酸っぱい臭いがした。
「これを気に入ったか?」
「…はい」
「そうか…」
淫具の亀頭を尿の口に擦(こす)ってやれば、アロは「いい」と激しく首を振った。
「虐(しいた)げられるのが好きなのか…」
陰嚢の痕を擦(す)ってやり、そのまま会陰へと抉るつもりで滑らせる。
濃い桃色の尻穴は、遠目で知っていたそれより綺麗だった。
「ああ、どうか、どうかーーー」
力を込めて押し込んだ張型はあっさり尻にめりこんで、するすると飲み込まれていく。
「ああああああっ!!!」
真奥へと突き挿れたそれを勢いをつけて出し入れすれば、髪を振り乱して吠えるその姿は、王が弄ぶおもちゃの彼ではなかった。
ずぶずぶと肉を掻く鈍い感触を陰具で味わいながら、8度沈めた時だった。大きくのけぞる体が硬直して、突き上げた腰の男根の名残にむしゃぶりつくと、舌を吸い込む尿道が激しく痙攣した。
「あ…ああッ…あああ…あッ…あ…」
嗚咽のような吐息を聞きながら。しばらくの間、びくびくと脈打つ性器の痕を吸っていた。尻から張形を抜いてやると、愛撫を施す口に熱い体液が溢(こぼ)れ出た。
体の熱と息が鎮(しず)まってから、アロの薄布で汚れた陰部と淫具を拭った。
「…汚してすまない」
体を離すと、四肢を投げ出したまま、アロは俺から顔を背けた。
ぐったりとした体の滑らかな曲線が描く陰影にそそられるが、きりがない。
アロに背を向けても、股間はまだ熱(いき)り勃っていた。
「……も…もうしわけっ、ありません…っ」
惨めに聞こえる声に振り返って、その顔を見たいとは思えなかった。
「…また来る」
「………っ」
何かを言いかけたアロに気づかぬふりをして、逃げるように寝所を出た。
門の外で控えていたガイは、「いかがでしたか」と俺の股間を一瞥して眉をひそめた。
「ご覧の通りだ、やってない」
「…しかしーーー」
「わかってる」
「………」
「確かに、病んでる」
「そうですか…」
「薬でどうこうできることじゃない」
「………」
「…求められた」
「…なんと、図太いヤツーーー」
「苦しいんだろ」
「…わざわざ、相手にされなくてもーーー」
「わかってる…」
「…いずれのことを考えれば、極めて厄介ですーーー」
「わかってる…王には漏れないように」
「難しいことをーーー」
「頼む」
「…承知しました」
後宮を出る頃には股間の昂奮は収まっていたが、俺の名を呼ぶ切なく甘い声がいつまでも耳に残っていた。
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