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* * *
「貴方は来てくださらない」
その言葉が、俺の理性をいともたやすく揺るがし、自制をあっさり崩壊させたのは、すでに一度、あの男の体の熱を知っていたからだろうか。
翌日。夜も更けた頃。
アロの館を訪ねると、化粧をした女の姿で俺を迎えた彼は、俺の来訪を間違いなく確信していた。
俺を直視せず、「随分遅い時間ですよ」と唇を歪めたアロは、俺を応接間に招いた。
「食ってくれ」と持参したモモを渡すと、彼は「嬉しいです」と形だけの笑みを作り、調理場からトレイを持って戻った。
トレイには、ワインの入ったカラフェとカップが2つ、そして小さなナイフが乗っていた。
「今食うのか」
「せっかくですから」
「そうかーーー」
「私と一緒では嫌ですか」
「まさか」
「…」
対面で、8等分したモモの皮を器用に剥くアロの表情(かお)は、よく知る仮面がどんな感情も覆い隠している。そして、僅かにもその刃を俺に向ける気が見えないのは、やはり自分の立場をよくよくわかっているからだろう。
「…どうぞ、貴方も」
モモの皿を作ったアロは、ワインを注(つ)いだカップをこちらに勧めた。
相変わらず俺を直視せず、ぱくぱくと果実を3切れも頬張った彼は、薄い笑みを浮かべてワインに口をつけた。
「召し上がらないのですか?」
アロはちらと冷めた視線をくれ、すぐに目をそらした。
「それはお前のために持ってきた、ワインだけで十分だ」
「そうですか、美味しいのに…」
そして、つまらなそうにもう2切れ食べたアロは、「そろそろ失礼します」とモモの皿とトレイを持って腰を上げた。
「どこへ?」
「風呂に行きますので」と素っ気なく背を向ける男が憎たらしい。
後を追い、背から抱き止めた体は、今夜も熱かった。
「どうしてそう刺々しい」
「…貴方が、色目を使うなと言ったーーー」
「可愛げがない」
弄(まさぐ)る胸で探る乳首が、薄衣越しに指の腹を突き上げる。
「…」
は、と声を飲んだ首筋に口づけて、衣を剥いだ肩へと唇で辿った。
「貴方には、どう接すればいいかわからない…」
「普通でいい…」
撫で回す腹の脂肪を揉みしだくと、その下に潜む筋肉が強張った。
「色目を使うなと言ったーーー」
「色目じゃなかったのかーーー」
「勘違いだ…」
体で聞く苛立つ声も、裏腹に震える体も心地いい。
「そうか…昨夜のお前は恐ろしく艶やかだった」
衣をたくしあげて内腿を摩すり、指を挿し入れて押し揉む脚の付け根は既に汗ばんでいる。
「男を誑(たぶら)かす趣味はない」
「お前の望み通り、来てやったのに」
尻肉を鷲掴み、恥丘の膨らみを挟んでしごけば、抱いた体の力が抜けていく。
「…あんたはっ、やな人だーーー」
「ああ、抵抗してくれ」
探り当てた傷痕の割れ目に指を擦り付けると、アロはくたりと俺に体を預けた。
「…や、やめてくれっ…!」
「いいのか…?」
「…こんな、ところで…っ」
従者達が休んだ後の静かな館に、アロの噛み殺した息遣いが響いていた。
「…では、寝所へお招きいただけますか…?」
喰んだ耳に囁いて、トレイを抱えた腕の消えかけた噛み痕を慰撫すれば、アロはよろよろと寝室へ向かった。
「お前を見せろ」
囁くと、アロは着衣を脱ぎ捨てて寝台に上がった。
「アーサー様…」
脚を開き、突き出した腰の恥を指で広げながら。俺を呼ぶ目は座り、唇は期待に昂る息を殺している。
「名を、呼ぶな…」
赤らんだ顔とふしだらな姿を眺めながら、アロが持ち込んだ皿からモモを1つ取って齧った。
「確かに美味い」
「…」
「お前はモモが好きだろ」
「…はい」
モモの欠片で両の乳首を擦ってやると、彼は「あ」と焦れったく腰を揺らした。
「…ふしだらなお前は嫌いじゃない」
モモを胸から鳩尾、腹からへそと滑り下ろして、恥丘の裾をくすぐると、アロは苛々と俺を睨めた。
「ああ、アーサーさーーー」
「名を呼ぶな」
「お、お願いですっ…」
「…」
熟れて赤く腫れた根にモモを擦ってやれば、ぬるぬると滑(すべ)る果実はアロを強く悦ばせた。
「おっ、ア、ああっ、きもちいっ…」
「俺は用なしか」
「あなたの、したが、ほしいのですっ…」
切なく懇願する目を睨(ね)めかえし、果汁で濡れたそこに吸い付いて、悩ましく溶けていく表情(かお)を視(み)て犯す。モモが染みた尿の穴は生臭くて甘酸っぱい、濃厚な生の味がした。
「ああっ、きもちいっ、アあ、アあっ…」
「貪欲なお前も嫌いじゃない」
モモの残りを頬張った口で男根を食い、咀嚼する舌で割れ目をこじ開けてやると、アロは腿を震わせてよがり、吸いながら飲み干せば、溢(こぼ)れ出た熱い体液が口に広がった。
「おお、あア、アアっ、もっと、もっとすってーーー」
「今日はもう一つ、いいモノを持ってきた…」
懐からガラスの棒を取り出すと、アロは怯えた目を見開いたが、その腰はいやらしく揺れている。
「なにーーー」
「中を可愛がってやれる」
ガラス玉のついた先端を舐めてみせ、それを男根の窪みに滑らせる。
「ばかっ、何考えてーーー」
「ばかとはなんだ、不敬だ」
そっと押した棒の先が、滑(ぬめ)る桃色の内肉につぷりと飲まれる眺めに昂奮する。
「おっ、おあっ、だっーーー」
「動くな、割れたら洒落にならない」
無慈悲にカットされた哀れな尿の口で玉を往復して、くぱくぱと拡がってはすぼむ粘膜を慣らしていく。
「ああ、ばか、あ、いや、そこ、あ…」
「こんなに充血して…」
抜き差しを繰り返しながら棒を少しずつ沈めていくと、アロの引き攣れた表情(かお)がみるみる弛(ゆる)み、もがく腰がうねうねと前後し始めた。
「あウ、あア、ア、だめ、おッ、きもちい…いっ、ア…」
半分ほど沈めた所の突き当たりを軽く突くと、「ひん」と鳴いた背ががくんと跳ねた。
「どうだ?」
体の中で大きく前後すれば、アロは「はあ、ああ」と腰をくねらせてよがる。
沈めた棒を掻き回せば、背を跳ね上げたアロは「んひい」とのけぞった。
「は、ア、いっ…で、るっ…!」
ひくと蠢いて咥え込む奥から棒を引けば、じょろと体液が溢(こぼ)れ出した。
「んああーーー」
棒を引くたびにじょろじょろと吹き出す尿の向こうで、羞恥に崩れた顔が恍惚に染まっていく。
「あ、あ、あーーー」「ああ…」
何度も戦慄(わなな)く腿を舐め、腹から胸のモモの汁を吸い、また腿を舐めてやりながら、ゆっくりと奥を捏ねて尿を掻き出し続ける。
「ああ、あ、あ、だめ…ああ、あ、あ、だめ…ああ…」
尿を漏らすたびにアロは「だめ」と無意味な拒否をしたが、唇はだらしなく涎を垂らしている。
「あ゛あ゛」と激しく体が硬直し、痙攣する腿を押さえ込んで棒を引き抜くと、勢いよく尿が吹き出して、同時に俺も射精した。
「…も、しわけ…あり、ませ…」
ぐったりと放り出された手脚は、まだ時折小刻みに震えている。
化粧が崩れた顔は惨めに歪んでいたが、惚けた目や口元を見れば、強い快楽を与えられたことはわかった。
「…何が」
「…っ…っ」
汚れた陰部は拭って綺麗にできても、寝具はどうしようもない。
「…また汚した、すまない」
「…っ…」
「…じゃあ」
「…ありがとう、ござ…」
寝台を離れた背に聞こえた小さな声に振り返らないで、館を後にした。
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