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その夜。
いてもたってもいられずにアロを訪ねると、彼は寝所で休んでいた。
「…アロ?」
声をかけると、静かに体を起こした彼は、「おかえりなさい」と精一杯に笑ってみせた。
既に化粧を落とした素顔で装う女の顔は、胸が詰まるほど痛々しい。
「昼間、見た…お前に何がーーー」
「土産はないのですか?」
「それは後だ、何があったか言ってくれ…!」
顔を伏せたアロの肩を掴むと、強張る体がびくりと竦(すく)んだ。
「…王が、来ました…」
「聞いた」
「…ここに、来て…」
震える声が息を飲んで、俺も息が苦しくなる。
「…貴方にするように、奉仕しろと…言って…」
「っ…!?」
「…だから、何もせず…に、いました…」
「…っ」
「それで、どういうことだと、問い詰められて…」
「…」
「でも、何も、何も言えずにいたら…」
「…」
「…怒った王が、私を…」
「…っ」
「ここで、私を、乱暴に、ここでっーーー」
今にも嗚咽を漏らしそうになったアロを抱き締めると、彼は強く俺の背にしがみついた。
「どうして…」
「…っ」
「どうして、以前は耐えていたのにーーー」
「貴方もっ…」
「…」
「貴方も、私をおもちゃにしか、思ってない…っ」
顔を上げたアロの目は、今にも溢(あふ)れてしまいそうな涙を溜めていた。
「そんなことはーーー」
「心には貴方がいるのに…!!」
「……っ!?」
「もう、耐えられないっ…」
そう吐き出して、俺の胸に顔を埋めたアロの背は、悲しいほど冷たかった。
「…アロ、俺はっ…」
「……っ」
戦慄(わなな)く体を強く抱き直した胸が、張り裂けそうだった。
「…すまないーーー」
「なんであやまるっ!?」
「本当に、すまないーーー」
「あんたなんか、知らなければよかったっ…!」
「…そうか」
強引にシーツに押し倒したアロの瞳は、怒りと憎悪に燃えている。
「…泣くなーーー」
「命令するなっ」
目尻に滲む涙を拭うと、後から後から涙が零(こぼ)れ落ちた。
「…ずっと、アロ、お前が欲しかった」
「…っ!??」
苦しく見開いた目が、ますます涙に沈んでいく。
「ずっと、ずっとだ…」
涙を拭う指で撫でた頬は、解(ほど)けてしまいそうに柔らかい。
「だけど、こんな形は望んでなかったーーー」
「聞きたくない!あんたなんかーーー」
唇を押し付けた口はいやいやと逃げ惑い、俺の下唇に噛みついて、そして俺の舌を吸った。
髪を掴んで我先にと捻じ込む舌で殴り合い、互いの口を蹂躙して、ついに深く結びついた時、アロは「ああ」と声を上げて泣き始めた。
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