14 / 21

その夜。 いてもたってもいられずにアロを訪ねると、彼は寝所で休んでいた。 「…アロ?」 声をかけると、静かに体を起こした彼は、「おかえりなさい」と精一杯に笑ってみせた。 既に化粧を落とした素顔で装う女の顔は、胸が詰まるほど痛々しい。 「昼間、見た…お前に何がーーー」 「土産はないのですか?」 「それは後だ、何があったか言ってくれ…!」 顔を伏せたアロの肩を掴むと、強張る体がびくりと竦(すく)んだ。 「…王が、来ました…」 「聞いた」 「…ここに、来て…」 震える声が息を飲んで、俺も息が苦しくなる。 「…貴方にするように、奉仕しろと…言って…」 「っ…!?」 「…だから、何もせず…に、いました…」 「…っ」 「それで、どういうことだと、問い詰められて…」 「…」 「でも、何も、何も言えずにいたら…」 「…」 「…怒った王が、私を…」 「…っ」 「ここで、私を、乱暴に、ここでっーーー」 今にも嗚咽を漏らしそうになったアロを抱き締めると、彼は強く俺の背にしがみついた。 「どうして…」 「…っ」 「どうして、以前は耐えていたのにーーー」 「貴方もっ…」 「…」 「貴方も、私をおもちゃにしか、思ってない…っ」 顔を上げたアロの目は、今にも溢(あふ)れてしまいそうな涙を溜めていた。 「そんなことはーーー」 「心には貴方がいるのに…!!」 「……っ!?」 「もう、耐えられないっ…」 そう吐き出して、俺の胸に顔を埋めたアロの背は、悲しいほど冷たかった。 「…アロ、俺はっ…」 「……っ」 戦慄(わなな)く体を強く抱き直した胸が、張り裂けそうだった。 「…すまないーーー」 「なんであやまるっ!?」 「本当に、すまないーーー」 「あんたなんか、知らなければよかったっ…!」 「…そうか」 強引にシーツに押し倒したアロの瞳は、怒りと憎悪に燃えている。 「…泣くなーーー」 「命令するなっ」 目尻に滲む涙を拭うと、後から後から涙が零(こぼ)れ落ちた。 「…ずっと、アロ、お前が欲しかった」 「…っ!??」 苦しく見開いた目が、ますます涙に沈んでいく。 「ずっと、ずっとだ…」 涙を拭う指で撫でた頬は、解(ほど)けてしまいそうに柔らかい。 「だけど、こんな形は望んでなかったーーー」 「聞きたくない!あんたなんかーーー」 唇を押し付けた口はいやいやと逃げ惑い、俺の下唇に噛みついて、そして俺の舌を吸った。 髪を掴んで我先にと捻じ込む舌で殴り合い、互いの口を蹂躙して、ついに深く結びついた時、アロは「ああ」と声を上げて泣き始めた。

ともだちにシェアしよう!