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タバコを燻らせて、アロの寝息をいつまでも聞いていた。 俺の腹を枕にぐったりと眠る彼の髪を指で梳いて、頬を撫でているだけで満たされた。 「たばこ、すうんですね…」 いつの間にか目を覚ましていた彼が遠慮がちに擦り寄せた体は、汗もすっかり消えて、冷え始めていた。 「吸う?」 「……それより、のどが…」 「水?酒?」 「…ワイン…」 体を起こしたアロを抱き寄せて、ワインのカップを取った。 手を伸ばす彼に構わず飲んでやり、拗ねた唇に口移しで酒を注ぐと、彼は潤んだ目をうっとりと細めた。 「体が冷たい」 アロを抱いて毛布に潜り、髪に鼻を埋めて、重ねた体で分け合う温もりは至福だった。 しばらくの間。彼は俺の首元に犬みたいに額を擦(なす)り付けていたが、俺の胸にそっと触れると、何か、思い切ったように口を開いた。 「…こんな…わたしは、じぶんが、はずかしい…」 「…今更ーーー」 「あんな…おんなみたいになって…われをわすれて…」 「…綺麗だった」 「…しねたら、よかったとおもうことも…あるーーー」 「お前は言ってた、命があるだけ幸せだってーーー」 「でも、こんな…こんなからだのじぶんに、あまんじたくない…」 「………」 「なのに、ずっと、ずっと…あなたにみたされたいと、ねがってた」 「っ…」 「…そんなじぶんが、ほんとうに、はずかしい…」 惚けた声がぽつぽつと並べる言葉を聞いているうち、どうしようもない罪悪感が幻想の幸福をどこかに追いやっていた。 いつまでも、事実は隠してはおけない。それでも、今、伝えるべきではない。そう思った。 「……おうは、わたしをころすでしょうかーーー」 「やるならとっくにやってる」 「…いまなら、しんだっていい…」 「ばか言え…」 苦い気持ちを飲み込んで、愛しい男を抱き直した。 「あさまで、そばにいてほしい…」 「…ああ」 子供みたいに俺にすがりついたアロは、すぐに穏やかな寝息を立て始めた。

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