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翌日。 午前の早々、王に先の戦いの褒賞を願い出た俺は、交渉の末、アロを下賜されることになった。 夕方。 後宮にアロを迎えに行くと、彼はどんな感情も見せずに、黙って俺に従った。 かつて俺がやった青緑の衣に着替え、化粧を落とした彼は、所持品の入った木箱一つを抱え、誰にも見送られることなく、二度と戻ることのない後宮を後にした。 外廷の俺の館につくと、アロは初めて口を開いた。 「説明をいただけますか…?」 「せっかくだ、一緒に晩飯でも食べないか?」 「…」 目を合わせようとしないアロを連れて、晩餐が盛られた12人掛けのダイニングテーブルにつくと、俺の右手に掛けた彼は「他には?」と怪訝な顔をした。 「俺とガイだけだ…他はいない」 俺とアロから離れた対角に座ったガイは既に食事を始め、聞こえぬふりをきめていた。 「…いつもお二人で…?」 「あぁ、家族はいないし、使用人達はここじゃ食べない」 「そうですか…」 「好きなだけ食べてくれーーー」 「貴方は私を餌付けすればいいと思ってる」 「尊重する気は変わりないし、腹いっぱい美味い物を食べてほしい」 アロの前にモモを置いても、彼は俯いたまま蒸し鶏をつついていた。 「…どういうことか、説明してください」 「お前は俺に下賜された、もう王の奴隷じゃない」 ワインのカップを勧めても、彼は見て見ぬふりで焼き豚をつついていた。 「貴方の奴隷になっただけ」 「…まぁそうーーー」 「説明してください、下賜された経緯を」 この日初めて、俺に顔を向けたアロは、冷え切った眼差しをくれるとすぐにまた、俯いた。 「…先の戦の、南国制圧の褒賞だ」 「…」 「山ほどの金銀財宝とある属国の支配権、それとなんでも好きなものを所望していいと言われてた」 「………」 「だから、お前をもらった」 「…どうして、今?…私が拒絶したから?自分の物にすれば、何もかも貴方の好きにできるからですかーーー」 「違うし、そうだ…」 「…」 「一つは、王がいつお前をゴミみたいに捨てるかわからない、時間の問題だった、場合によっては助けられない…だからその前に動いた」 「…」 「もう一つは、俺のモノにすれば、お前を自由にしてやれるーーー」 「奴隷は奴隷だーーー」 「俺が自由と言えば自由だ」 「…」 「俺はずっと、優れた武人で医者のお前が俺の元で力になってくれたらいいと身勝手な夢を見てた…」 「…」 「さっさと国に帰れ」 「どうしてーーー」 「もうこれ以上、お前に嫌われたくない」 「…」 「謝っても仕方ないのはわかってる…けど、隠してて、すまなかった」 「…」 「臆病な俺は、お前に拒絶されるのが怖かった…」 「…」 「申し訳なかった」 「…」 「…明日にでも行け」 「…あんたは、どうかしてる…」 俯いたまま、ぼそぼそ呟いたアロは、ラムの肉団子に伸ばした手を引っ込めた。 「何が?…食えよ、美味いぞ」 「…王は、王は快諾したのかーーー」 「もちろん交渉した、お前は王のお気に入りだ」 「…」 「…つまり、金銀財宝と属国は辞退した、その代わり、お前だけでいいからくれと言った」 「どうしてーーー」 「説明が必要か?」 「………あんたは、大馬鹿なんだな…」 「…本当は、王がお前に飽きる頃を見計らって願い出るつもりでいた…が、もっと早く動けばよかったと悔やんでる」 「…」 「お前を、必要以上に苦しめていた」 「…」 「それも、申し訳ない…」 「…」 「…食ってくれ、体力つけないと国に帰れないぞ」 それから、俺が食事を終えるまで。 アロは俯いたまま、飲み食いもせず黙りこくっていた。 「俺は少し仕事をしたら寝る」 「…っ」 「ちゃんと食え、食べたらガイに部屋を案内させる、風呂なんかも…必要な物があったら聞いてくれ」 「…」 「じゃあ、おやすみ」 席を立っても、俯いたままのアロは何も言わず、肩を竦(すく)めていた。

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