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それから約1週間後、FAMEの編集部から実際に掲載される写真をまとめたpdfが届いた。 20ページ分の写真を頭から順に見ていくと、明らかに見覚えのない写真、つまりあの日、フィルムで撮ったらしい僕が目に入った時、驚きのあまり声が出なかった。 デジカメの写真がいいのは既にわかっていたが、それどころじゃなかった。 「あぁ、ほんとに素敵、素敵すぎる」とため息をついたクレアは、「確かに、あなたのこんな表情(かお)、見たことないかも」と感嘆の声を漏らした。 僕は実在の人物から歴史上の偉人、ファンタジーの人外まで、幅広い役柄を演じてきた。中でも、顔貌(かおかたち)や身のこなしまで、実在の人物をそっくりそのまま演じる俳優としても評価が高い。プロの役者として、自分がどんな顔を創(つく)ることができるかよく理解(し)っているし、舞台やカメラの前では、どの瞬間だって表情の細部まで意識し、コントロールできている。経験に基づく自信もある。 それなのに、5枚ほど差し込まれているフィルム写真は、そのどれもが評判通りの、誰も、僕すら知らない表情(かお)をした僕だった。 「でも不思議、どうしたらこんな撮り方できるんだろ…光の加減?」 一通り写真のチェックを終えた後で、クレアが首を捻った。 そんなこと、“身に覚えのない”僕が一番知りたかった。嘘だろという思いで知らない自分を見返すことしかできない。 表情はともかく、実際のところ、フィルム写真の僕はむしろ"かなりよく”撮れていて、編集部には全部OKの連絡を入れた。 けれど、しばらくの間、僕は狐につままれたような気分が抜けなかった。 そして、冷静さを取り戻すと、あの日のフィルム写真を全部見てみたいと強く思った。 * * それから3日後、久しぶりのオフ日のこと。 ちょっとした用事でマネジメント事務所に立ち寄った。クレアのオフィスを覗くと会議だかで不在で、少し待つかと思った時、デスクの郵便物の束が目に入った。届いたばかりなのか、クレアがチェックした跡はない。 たまたま見えた一番上の白い封筒は僕個人宛てで、ファンレターかなと取り上げて裏返して見ると、差出人の名にドキっとした。 アレック・テイラー。あのフォトグラファーの名前だけ、走り書きされている。 中には厚紙が入れてあるらしく、保護されている物はおおよそ察しがついた。 先日の件で心の準備はできているつもりが、また新たに見せつけられるのだと思うと、期待と不安で指が震えた。 封を開くと、中には10枚の写真が入っていた。 最後まで目を通した僕は、ショックのあまり呆然としていた。 何が起きているのか、全く理解ができなかった。 そこに写っていたのは、僕が知らない、“下品なほど淫らで扇情的な、セックスでハメ撮りでもされてるような僕の姿”だった。 混乱した頭で自宅に直行し、もう一度写真を確かめた時、やっと「クソが」と吐き捨てることができた。 「何かの間違いだ」と自分に言い聞かせてウイスキーを煽り、少しずつ落ち着きを取り戻すと、火を噴きそうな怒りを覚えた。 悪戯にしては悪意がありすぎるし、匿名ならともかく堂々名乗りを上げてこんなことをするあのフォトグラファーの気が知れない。 何が目的なのかと思えば怒りに震え、時間差で沸く恐怖にゾッとして、忌々しい封筒をゴミ箱に放った。 まだあれをクレアが見ていなくてよかったと思う。プライヴェートがほぼ筒抜けの彼女にすら見せたくない、自分でも見たくないようなものを、あの男が持っている事実に反吐が出る。まさか、フィルム写真も“全部”編集の人間に見せているかもしれないと思うと、眩暈(めまい)がした。 殺せ…じゃない、燃やせでもない、どうすればいい?とぐるぐる思案していた僕は、自分が思う以上に動揺していた。ようやく夕方、あのネガを葬ればいいだけという単純なことに気づけた僕は、まだまだ混乱していたと思う。 調べてわかるテイラーの連絡先はメアドかインスタぐらいしかなく、仕方なくメールで『電話くれ WS』と電話番号だけ送った。

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