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会話をしていたはずが、気がつけば男は指示しかしなくなり、僕はただ従っていた。
もうどれだけ、そうしているのかわからない。
「ーーーで、ください」
言われた通り、深くうなだれた僕は、自分を抱き締める。
シャッターが下り、フィルムを巻く音を聞いて次の指示を待っている。
「…上着とシャツを脱いでください」
ジャケットを脱いで、カットソーの裾に手をかける。
シャツを腕の下まで持ち上げたところで、横腹から脇へとシャッターが《撫でる》。
頭を抜いたところで、首筋から肩をシャッターが《撫でる》。
腕から抜いたシャツを床に落とすと、《背後に現れた“もう一人のテイラー”が、「とても素敵です」と僕の体に腕を回す》。
「…お前、なにーーー」
「目を閉じてください」
シャッターが《腹に触れ、胸へと撫で上げて》、《後ろの彼が首筋に歯を立てる》。
見えてなくても、カシャッという音でテイラーの“意図”がわかる。
シャッターが無遠慮に体を這い回るたびに、レンズの奥に囚われていく。
「…顔を、上げてください」
顔を上げると、《背後で僕をがんじがらめにする彼が、「いいですね」と耳に囁く》。
「よかないーーー」
「僕を見てください」
レンズを睨む僕の《顎を撫でた》シャッターが、《胸から腹の下へとなぞり下りる》。
「……前を、開けてください」
失せろ、と胸の内で唾を吐いても、ジーンズのジッパーを下ろしている僕がいる。
下着を突き上げるムスコが明らかになり、《背後の彼が低く笑い、下腹へと手を伸ばす》。
忙しなく下りるシャッターが《顔や胸や腹を撫で回す》たびに、股間に血が巡っていく。
「…っ」
「…脚を開いて」
開いた脚の間に跪(ひざまず)いたテイラーが、勃起した下着の向こうでファインダーを覗く。《背後の彼が「貴方以上の被写体はいない」と囁いて、内腿を撫でさする》。
シャッターが《頬を弾き、胸で遊んで》、じくじくと熱を増す股間を《焦らす》。
「…どぉして、そこを撮らない…?」
「…貴方が望んでない」
「…っ」
「そうでもないですか?」
微笑んだテイラーが後ずさり、そこにピントを絞る。《背後から伸びた手がそこを掴んで、ゆっくりと揉みしだく。》カシャッと《ディックに絡みついて》、カシャッ、カシャッと《雑に扱(しご)く》音に翻弄される。
「…ッーーー」
「じゃあ、下も脱ぎましょうーーー」
「なんでーーー」
「そのほうが楽そうですから…」
下着くらいなら構わないと思ったのは、シャッターの快感に囚われていたからだ。
「…ヌードじゃ、ない」
「えぇ」
ジーンズを抜いた左脚を《後ろの彼が肘掛けに持ち上げて》、カメラに突き出してしまった股から、湿った熱が体中に広がった。
「…あっーーー」
「ずいぶん、大胆ですね…」
下着と肌の境をシャッターに《丁寧になぞられて》、もたれたソファにしがみつく。《背後の手が胸をくすぐり、下着の中に潜り込む。》
「みるな、よーーー」
「ご自分でそうしたのに…?」
会陰の真ん中をシャッターに《抉られて》、下着と《手の》中でディックが跳ねる。
「あッーーー」
「ああ、とても…」
カシャッと会陰を突いたシャッターが、冷たい連写で僕を嘲笑(あざわら)う。
《「いい」と囁く彼がそこを探り、前後に滑る指で昂(たか)ぶる僕を焦らす。》
「っーーー」
「いい、ですね…」
カシャッ、カシャッと《犯される》たびに浮いてしまう腰の向こうで、カメラが僕を見つめている。
「あ、あ…ッーーー」
「下着、汚れてしまいましたね…」
目ざとくディックの先の染みに気づく男が、心底憎らしい。
「見んなーーー」
「脱いでしまいましょうか」
「バカいえーーー」
「下着も裸も変わりませんよ」
《僕を羽交い締めにした男が下着を引きずり下ろして》、もがいているうちに僕はブーツだけになっている。
「…いいですね、かえってアートになるーーー」
「わっけわかんねぇ…」
《「僕に任せてください」としつこく僕の脚を抱え上げる彼》に、どうしても抗えない。
「…綺麗ですね」
顔を背けても、テイラーがほくそ笑むのがわかる。
遠慮なく、カシャッと会陰を舐められる快感は、これまでと比にならない。
「ッーーー!」
「…貴方が女性なら、ここを広げて奥まで撮りたかったーーー」
「てめっ、いつもこんなこと…してんのかよっ…」
“テイラーの撮影予約は1年半待ち“、を思い出す。
「まさか!」
カシャッ、カシャッと忙(せわ)しない音が《あるはずのない穴をこじ開けて、奥へ奥へと突き上げる。》
「ん、う゛ッーーー」
「ここは僕の聖域…ここで人を撮るのは初めてですよ」
カシャッ、カシャッ…《体の中で、硬く冷たい音がイライラと往復(ピストン)する。》
「あ、あ、ぅあ…」
《「もっと開いて」囁く声が胸を捏ねて、強弱をつけて乳首を練る。》
「……本当は、小道具なんて使いたくないんです」
カメラを下ろした男が、どこからか取り出した棒状の何かを軽く振ってみせたがよく見えない。
「なんーーー」
「でも、試してみる価値はある気がして…」
彼はその黒い先端をキャンディみたいに舐めると、僕の会陰に押し付けた。それは親指より一回り太い卵型で、卑猥な硬さがシャッターの快感をなぞった。
「なっーーー」
「よくある大人のオモチャです…黒がなかなかなくて、ピンクや紫は肉の色を食ってしまうから美しくない…そう思いませんか?」
下品な玩具(おもちゃ)でタマの裏からケツの穴を擦りながら、そう真面目に語る男はイカれている。
「おま、やめっ…」
《彼が左脚を抱え直して》さらに陰部を曝(さら)け出した僕は、疼く腰が揺れてしまう。
「こんなに綺麗なお尻の穴は見たことがありません…」
ぐりぐりとケツを突(つ)く玩具に恐怖を覚えても、どこかでリアルの快楽を期待している僕は、《僕を押さえつける彼》を振りほどけない。
「やめーーー」
「ちょっと聞きかじったんですが、いきんでるとかえって吸い込んでしまうようですよ、ああ、ほら…」
鈍い痛みの後に、体内にするりと潜り込んだ玩具の不快感に声も出なかった。
「っーーー」
「アァ、すごいッ…」
子供みたいに喜んだ男が、食いつくようにカメラを構えた。左手で持ち直した玩具で僕の反応を伺う彼は、不器用な手つきでケツを闇雲に探る。
「ンっ、おッーーー」
シャッターと玩具にそこを抉られて、たまらずのけぞった。《彼に握り込まれて》跳ね上がったディックから、先走りが小便のように垂れ落ちる。
「…貴方、こういうの好きなんですね…」
嬉々とした声は、体の底から脳天に響くシャッターの音に掻き消える。
「あぁ、ここですか…?ちがう、ここだ…」
無邪気に攻め立てられて息もつけない僕は、無意識に回してしまう腰でうねる快楽に身を任せることしかできない。
「あ゛、あ…ア…っーーー」
「…シールズさん、とても綺麗です」
ケツを弄(もてあそ)びながら僕を覗き込んだ男は、カメラの向こうでひっそりと喘いでいる。《もう一人の彼が、「いい表情(かお)だ」と囁く。》
「…てめぇを、みせろっ」
鬱陶しいカメラを払いのけると、テイラーは満足そうに笑っていた。
「やっと“貴方”を、見せてくれましたね…」
その瞳に宿るのは、計り知れない憧憬と焼け付くような情熱、そして、蛇みたいに執拗な執着。
「…ほざけ、よっ」
ムカつく男の胸ぐらを引っ掴んだ時、腰の奥底で想像を絶する快感が弾けた。
「ア、あ゛、ああ゛ッーーーーー」
腰を振って吐き出す精液と声が切れれば息が止まり、恍惚としたテイラーの顔が霞んでいく。《僕を抱く彼が体を震わせて笑い、「やっと捕まえた」と歌うように囁いた。》
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