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気がつくと、吊るされていた。黒い布で括られた両手が天井から吊った鎖に結わえられて、なんとか立っていられても、膝をつくことはできない。 「…なっ、にーーー」 「あぁ、痛かったら言ってください」と僕の右膝にロープを通して吊り上げたテイラーは、「貴方のエクスタシーを撮り逃したのが惜しくて」とひどく残念がった。 「決してSMみたいなことが好きなわけじゃないんです」 そう言って足元に跪(ひざまず)いた彼が、僕の陰部をまじまじと観察する。くたびれたディックとタマを嗅いで、「これが貴方のニオイなんですね」と目を細める男にゾッとしても、腿をくすぐる吐息に体は熱くなる。 そして、今度は本物の型のディルドを僕のケツに突き挿したテイラーは、「いい眺めです」とカメラを覗いた。 自由の効かない体を攻め上げる玩具とシャッターの快楽は激しく、《背後の彼に抱えられて》なおさら身動きが取れない。 「あ、アッ、あ゛、ィやだーーー」 快感にもがく体に、ギリギリと軋む鎖の音が食い込んだ。《背後の彼が、「汗も綺麗だ」と脇腹から胸を舐め上げる。》 カシャッ、カシャッと突かれるだけで奮い立つディックが、早くも先走りを垂らしている。 「どうですか?男のペニスは…もしかして、慣れていますか…?」 含み笑いで僕を抉(えぐ)る男のぎこちなさが、かえって体を震わせる。 「…ざけん、なーーー」 「こういうことが初めてなら、ますますイキ顔を撮り逃したのが惜しいです…」 《くつくつ笑う彼が、「貴方の素質(こと)はわかってた」と胸に吸い付いた。》 「あ、アア、あ゛あッーーー!」 ゴリゴリと擦(こす)る快感が早くも弾け飛んで、僕は体を捩(よじ)って昇天する。再び朦朧とした頭には、手首を締める手枷の痛みすら甘い痺れになる。 「…とても、とても素敵です…」 カシャッ、カシャッとディックから腹、胸へとよじ上る音が顔を愛撫する。 《「もっと見せて」と彼が笑い、だらしなく精液を垂らすディックを握り込む。》 「無理強いをしてすいませんが…」 申し訳なさげにそう言ったテイラーは、床に1m四方くらいのアクリル板を置き、その真ん中に吸盤で固定するディルドを設置した。 用意周到過ぎる。そんな疑念は、《背後の男に「貴方のためななら当然」と笑い飛ばされる。》 「も、じゅうぶん、だろっ…」 黒く禍々しい玩具から目を背けても、《「足りないでしょう」と囁く声に》萎えたディックが熱くなる。 「僕はあまり上手くできていないと思うので、自分で気持ちよくなってください」 ニコニコと僕の拘束を解いたテイラーが、早速床にへばりついてファインダーを覗き込んだ。 促されるままにアクリル板を跨(また)いだ僕は、より強い快楽を欲しがる体に抗えない。 「ア、ぅ、ん…っ」 ゆっくりと玩具に沈めるケツの奥で、肉がより深く拓かれていく甘い圧迫に声が漏れる。 《「いいこですね」耳を舐った彼が笑い、痛いほど乳首を捻(ねじ)る。》 「…貴方の乳首、気持ちよさそうですね…」 股と顔を往復するシャッターが、みっともない僕をつぶさに犯していく。 《背後の彼が僕の腰を強く押し込んで》、僕は盛った犬みたいに玩具に腰を打ち下ろしている。 「ん、おお、あ゛ッ、い、イイっーーー」 「貴方は本当に…言葉になりません…」 より深く貫いた肉は熱く痺れて、大きく腰を上げてこそぐ肉が蕩け落ちる。 《「一人戯びが上手ですね」とディルドにディックを重ねた彼が、下から僕を突き上げる。》 「ん゛あ…ッ!」 「真奥と、手前と…ディルドを抜く時がイイんですね…」 体を舐め回していたシャッターが少しずつ僕を探り、快感に同調して、ついにはカシャッと聞こえるたびに、体の芯に閃光のようなエクスタシーが走った。 「あ゛ぁ゛、もっ、おッーーー」 「とても、綺麗だ…」 無心で腰を振る僕ににじり寄る彼の股間も、大きく張り出している。 《「貴方の中が悦んでる」僕の腰を掴んだ彼が、いやらしく腰を回す。》 「いく、い、い゛ッ…ぐッ、ア、あ゛ーーー」 腰の深いところから押し寄せる快感が溢(あふ)れこぼれた瞬間、真っ白い闇に放り出された。 「…あ、あ゛…っーーーーーー」 ふわふわとした恍惚の中で、ケツからずるんと玩具が抜ける快感がまた弾けた。 目を開けると、床に倒れた僕の上で、テイラーが一心にシャッターを切っている。 「立って、ソファに手をついてお尻を出してください…」 淡々とした指示に滲む昂奮が、僕の弾切れのディックに熱を灯す。 もうイヤだとどれだけ頭で思っても、体は言うことを聞かない。言われるまま、ソファにしがみついてケツを突き出す僕の《後ろで、「終わりなんてない」と笑う彼が、腰から背筋を舐めあげる。》 「…本当は、こういうオモチャが嫌いです」 つまらなそうに言ったテイラーの手が、尻の肉を開く感触にため息が漏れる。 また、躊躇なくケツに捻じ込まれたディックはさっきのよりは短いが、無数の柔らかな棘が肉を掻いた。 「ゔっ…ひ、あっ…」 「下品なだけで美しくない…でも、貴方はこんなモノでも悦んでくれる…」 捻(ねじ)りながら抜かれる快感にたまらず呻いていた僕は、射精よりも遥かに強い快楽に取り憑かれている。 「ン、おおッーーー」 「生まれたての子鹿みたいです…こんな貴方を知ったら、みんなどう思うでしょう…?」 「ん、う゛ッ…」 快感をこらえるのに精一杯で、言葉の意味に追いつけない。《もう一人の彼が、内腿に流れ落ちる汗を啜っている。》 「オモチャを…引くと…めくれたアヌスが…吸い込みますね…」 玩具の往復(ピストン)に重なるシャッターが、腰の奥までカシャッと届く。いやでもディックに血が巡り、《喜んだ彼が長い指で僕のタマを転がしている。》 「も、もぉ、やめーーー」 「景色が殺風景ですね、気分を変えましょうか…」 僕の声なんか聞こえていないように、また何かを取り出したテイラーは、ガーターベルトのようなものを僕の腰に括り付けた。 「なっーーー」 「これは革製で、デザインもまだマシです」 股間の前から尻の窪みに通したY字のベルト(腰の左右から足の付け根へV字に通し、会陰で1本になる)がきつく留められて、それがケツに埋めた玩具を固定したのだとわかった。 「こん、なっ…」 振り返ると、体内の玩具が食い込む衝撃で力が抜けた。 「あッーーー」 ふらつく足でなんとかソファにもたれても、息をするだけでめり込む玩具に弄(もてあそ)ばれる。《耳元で笑う彼が、ガチガチに猛るディックをわざと避(よ)けて、陰毛を指で梳く。》 「あぁ…とても、扇情的ですね…」 カシャッ、カシャッと体中に注がれる快楽が、ケツを犯す下品な快感を増幅する。 「貴方は本当に、セクシーです…」 普段、誰彼から聞く称賛(セクシー)とは熱量の違う、劣情を帯びたその言葉を聞くだけで、ゾクゾクとしたものが背筋を這い上がる。 「あ、ア…」 ついに腰が抜けて膝をつくと、すかさずテイラーが「四つん這いになってください」と笑った。 「バスルームに行きましょう」 促された通りに四つん這いになると、テイラーが僕の尻を覗いて何かしようとした。 振り返ろうとしたその時、ケツの中でブンと唸った刺激にタマを蹴り上げられた僕は、声も出せずに絶頂して床に崩れた。 * * それからのことは、朦朧としていてあまりよく覚えていない。 ケツに仕込まれていた玩具は、ぐねぐねくねるバイブ付きのシロモノだった。少し動くだけで容赦なくケツを抉り回すそれに構わず、テイラーは僕をバスルームに向かわせた。 一歩、二歩と這うたびに無理にでもイかされて、床に転がってはなんとか這いずって、30歩もかからない距離を10分もかけてバスルームに辿り着くまで、彼は前や後ろや横から写真を撮りまくっていた。 わざわざシチュエーションを変えても、テイラーはシャワーを僕にかけるとか、バスタブに僕を沈めるとか、そういうことをする気はないらしかった。 冷えた石壁を背になんとか立っている僕は、《前から僕にへばりついて腰を振っている男》と、《穴という穴にねじ込まれる》シャッターと、下品にケツを擦(こす)り上げる玩具に犯され続けている。 体が耐えられる快楽の限界はとっくに振り切れて、カメラ越しの男の呻くような賛美も、《もう一人の彼の絡みつく囁きも》、聞こえていても意味をなす前に溶けてしまう。 足元に跪(ひざまず)いたテイラーが腰の拘束具(ベルト)を外して、何度かシャッターを切ると「しゃがんでください」と笑った。 理解する前に手を引かれて壁を背に腰を落とすと、《彼が「見えない」と僕の膝を開く》。僕から離れた手はとても熱く、喘ぐ肩は震えていた。すぐにカメラを構えたその表情(かお)はやっぱりよく見えないが、もう、カメラを払いのける気力はなかった。 「手を使わずに、オモチャを出してください」 「…も、お、むりーーー」 「お願いします」 有無を言わさない声に、今更に腹が立った。 これが済んだら、めいっぱい殴ってやる。 そう心に決めて、なんとか腹に力を込めると、痛いほどの快感で目が眩んだ。 「ん゛、ぅお…ッ…!!」 「出てきましたよ、上手ですね…」 シャッターが《ケツで蠢いて》、《彼がディックを根本から扱(しご)く》。 「あッ、あ゛、だめ、むりーーー」 「ペニスも悦んでいますね…」 「もッ、でない、あ゛、でない、でるーーー」 ケツから玩具が抜けるにつれて、卑猥に蠢く下品な音がディックまで震わせる。 「貴方のペニス、とても素直で好きです…」 「ア、も゛、ゆ、ゆるしてッ…」 「…今のままもいいですが、毛を剃って、綺麗な体をネガに残しておきたいですね…」 「も、ゆるし、だめ、ア゛、で、でるッーーー」 「はい、出してください」 「…アッ、あ゛、あああーーー」 目を閉じて、凶悪な玩具をひり出した瞬間、僕は、ケモノのように吠えて失禁していた。 「ア、あ゛…ッ」「あっ…」 サオを伝ってタマから尻に垂れる小便は熱く、甘美な解放に震え上がる。 「…ッーーー」 地獄のような快感に焼かれて、天国に放り出された体が堕ちていく。 「ぁ、あ゛ッ…」 へたり込んだ尻の下でガタガタ煩(うるさ)い玩具を取り除く手の感触に、だらしない声が漏れた。 「あ…ふーーー」 「嗚呼…シールズさん…」 目を開くと、ぼやけた視界のすぐそこにレンズがあった。 「…っ……っ…」 何度かシャッターを切った後、静かにカメラを下ろした男は、心の底から幸せそうに笑っていた。 「…とても、とても、綺麗です」 僕の涙を指先で拭ったテイラーは、僕の腰に屈(かが)み込んで小便塗(まみ)れのディックを咥えた。 自分の股間を弄(いじ)り始めた彼のそこは、見えない。 霞んでいく意識のどこかで、《誰かが「この先ずっと、貴方を撮り続けてあげましょう」と囁いた》。 丁寧にしゃぶられる甘い悦びに浸されて、「うせろ」と口にする前に意識がホワイトアウトした。

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