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サルみたいにファックしたら、やっぱりバカみたいに気持ちよかった。 テイラーは、今日はフツウだった。 …フツウというのは手を縛ったりしなかったというだけで、もう無理ってほどイカされて、泣いて「許して」と懇願したらやっと満足したらしい。 ヤツは加減を知らないから、そういうことをちゃんとわからせてやらないといけない。 頭も体もくたくたに蕩けた僕は、テイラーに後ろから抱かれている。 重たい体温にすっぽり包み込まれてしまえば、肌を擦る男の体毛も、尻に挟まってる萎えたディックの感触だって心地よかった。 肩から指先へと重ねた手が肩に戻り、脇から腰を擦(さす)り下りる。尻から腿の横を撫で回して、また肩に戻って繰り返す愛撫は、僕をこのまま寝落ちさせまいと意地になってるみたいだった。 「……きもちい…」 「…とっても、すてきです」 髪に埋めた鼻で後頭部を嗅ぎながら、そう何度も囁く彼は、壊れたロボットみたいだった。 「…ごい(語彙)がなすぎるーーー」 「すきです」 「……なんで、おもちゃとかつかわない?」 「言ったじゃないですか、好きじゃないって…」 「…あんま、おぼえてない」 「撮影の時に使ったのは、ディックを挿れてたら撮れないので代用です」 「…せつめいどーもーーー」 「使いたいですか?」 「そーじゃなくてーーー」 「SM好きそうですしね」 「…そ(剃)らせない」 「仕事に差し支えがありますか?」 「べつにない」 「じゃあ次回あたりーーー」 「おことわり」 「風呂に行きませんか?」 「もうおひらき」 「…はい」 「…なー」 「はい」 「……アコガレとファックするのって、どんなきもち?」 テイラーが息を潜めて、愛撫の手も止まった。 「…いきなり、なんですか?」 「…なんとなく」 しばらくして、僕を強く抱いた彼が、肩に唇を押し付けた。 「…言葉に、できません」 「…そおーーー」 「でも…」 「?」 「怖いですよ」 「…なにが?」 「…シールズさんを、失うことが…」 「……ぼくは、おまえんのじゃない」 「……はい」 体を起こしたテイラーが、タバコを吸う気配がした。 そっちに寝転がると、彼はカメラを構えていた。 シャッターを切った彼は、「美人です」と幸せそうに目を細めた。 「…ごい(語彙)、ふえた」 テイラーが咥えたタバコをひったくって吸うと、好きじゃないフレーバーがした。 新しいタバコに火をつけた彼が、「図々しいですね」とカメラのファインダーを覗いた。 「…そーじゃない」 「?」 「とられたたばこはとりかえしてすうんだよ」 「…誰が決めたんですか?」 「そーゆーもの」 「そうですか」と頷いた彼は、シャッターを切った。 「…おまえ、もてなそう」 「タバコだけで?」 「いろいろ」 「人付き合いはそんな得意じゃないです…」 「しってる」 シャッターが、カシャッと答えた。 「…さむい」 「はい」 もう一度、重たい温もりに包まれた僕は、本当なら、僕がガールフレンドか誰かをこうして抱いてる方なのに、とふやけた頭で思う。 それなのに、なんだかびくびくと髪を撫で梳いてる指が気持ちよくて、そんなことはどうだっていいと目を閉じてすぐ、恍惚と至福を混ぜた眠りに滑り落ちた。 * * * 翌朝は、さすがに寝坊しなかった。 朝飯は、前日同様テイラーの簡単なブレックファーストと、前夜買っていたスペアリブを温めて食べた。 スペアリブが美味かったと伝えると、テイラーは「次はプルドポークも食べましょう」と改めて勧めてきた。 らしいと思うが、まぁ美味いんだろう。 今日の取材は11時から、シェパーズ・ブッシュのTV局で行われる。 このまま普段着で行くわけにはいかないから、一度家に戻る必要があった。 のんびりお茶を飲んでいたら8時半を過ぎていて、適当に身支度を済ませて帰ろうとすると、テイラーに呼び止められた。 「シールズさん」と呼ぶ声は淡々としていた。 「忘れ物です」と差し出されたのは、あの、FAMEの撮影のネガが入った封筒だった。 「…あぁ」 すっかり忘れていたのは、それはもう、どうでもよくはないがどうでもいいことだったからだ。 「…いらない」 「?」 「それは、お前のタカラモノなんだろ…?」 「…はい」 「だから、お前が持ってろ」 「…」 「…その代わり、死ぬ前には絶対処分しろ」 「はいーーー」 「しなきゃ僕がここを燃やすーーー」 「また、貴方を撮りたい」 真っすぐ僕を見つめる彼は、プロの顔をしていた。 「勝手に撮ってるだろーーー」 「そうじゃなくて…」 「僕はそんな暇じゃない」 「……はい」 「じゃあ、行くわ」 「はい」と彼が持ち上げたカメラのレンズを押さえた。 ぽかんとした唇に食いついてやると、テイラーが数拍遅れてがっつこうとしたから口を離した。 そして、何か言いたくてたまらなそうな彼を振り返らないでスタジオを後にした。

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