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第一章 はじめての恋と効かないフェロモン2

***  原因を究明できないまま、一日が終わってしまった。鬱々した気分をリフレッシュすべく、このあと部活があればいいのに、職員会議とかで本日は休みだった。 (しょうがない。寝不足を解消するために、家に帰って寝るか……)  大きなあくびをしながら生徒玄関に向かいかけたら、いきなり背中を叩かれた。 「うわっ!」 「部活がないからって、たるんでるんじゃないのか? 西野は副キャプテン様なのによ」 「長谷川っち、ウザっ!」 「先生をつけろ、副顧問に挨拶はないのか」  俺よりも背の低い長谷川先生に体をきっちり向けて、深いお辞儀つきの挨拶をしてやる。 「大変失礼いたしました。こんにちはです、長谷川先生!」 「最初から、そうしてくれたらよかったのによ。しょうがない、かわいい生徒に有益な情報を提供してあげるか」  頭をあげた俺を見るなり、長谷川先生はにっこり笑って、利き手の人差し指で天井を指差した。 「年度末の予算が余って、困っていた事務員さんの相談に乗ったのが俺だったわけ」  二階には職員室がある。それを指し示したのだろうか? 「長谷川先生がその相談に乗って、なにかを買ったってことですか?」 「ご名答! バスケに関する専門書をたくさん仕入れておいた。副キャプテンの西野なら、それらをうまいこと使って、練習に組み込めるだろう?」 「それってすげぇ! 長谷川っちサンキュー」  職員室に指を差していたのかと思ったが、どうやら同じフロアにある図書室だったらしい。 「西野、先生をつけなさい。そしてフェロモンがダダ漏れしてるぞ。ベタの俺には効かないが、周りの生徒が反応して、めんどくさいことになるから気をつけろって」 「悪い、嬉しくてつい……」  しょんぼりしたのを見たからか、長谷川先生は俺の頭をぐちゃぐちゃにするように撫でた。 「ま、俺のメンタルはすごいから、アルファのフェロモンなんかにやられないしな。ベタはベタ同士で仲良くするから、おまえはどうかいいオメガを見つけて、仲良くやってくれ」  ひとしきり俺の頭を撫でてから、ゆったりとした足取りで目の前から消えていく背中に、そっと訊ねる。 「いいオメガって、どこにいるんだよ……」  長谷川先生の背中を見送りながら呟いたけど、頭の中はモヤモヤしたままだった。でもバスケの専門書って言葉が耳に残っていたため、なんだか体がウズウズしてくる。 (寝不足解消は後回しだ、バスケのためなら動ける!)  気合を入れ直しつつ急いで踵を返し、図書室に向かう階段を一気に駆け上がった。

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