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第五章 恋の鼓動と開く心15
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体育祭が終わり、運命の中間テストがはじまった。悠真に恋を指南する約束は反故されたが、それでも俺はやるつもりで、必死になって毎日テスト勉強にいそしむ。
相変わらず悠真に距離をおかれていたけれど、その距離もテストの結果で縮めてやるぜというやる気に変換させた。
普段しないくらいに勉強した結果――がんばりすぎたせいで、テスト当日に風邪を引いてしまうアクシデントに見舞われた。熱は微熱でおさまっていたものの、鼻が詰まって呼吸がしづらく、頭がぼーっとする。
(それでも俺はなんとしてでも、学年5位以内に入らなきゃいけないんだ!)
回らない頭に鞭を打ちながら叱咤激励しつつ、二日間無事にテストを受けることができた。いつもの俺ならきっと余裕だと豪語できたが、今回のアクシデントでは、ケアレスミスがあるように思えてならない。実際の採点は、ぎりぎりになるかも……。
テスト明けから部活が再開されるが、どうにも体調がよくないので、三年の部長にラインで休むことを打ち込み、一仕事終えたことの安堵感で机の上に突っ伏していると。
「西野、具合が悪そうだな」
言いながら俺の背中を軽く叩く、できた副委員長様が傍に立った。無造作な前髪の下にある、クールな瞳が俺を見下ろす。
「あ〜、佐伯か。テストが終わったと思ったら、気が抜けちまった」
「いつもそれくらいの意気込みでテストを受けていたら、西野の成績はもっと上位に食い込んでいるだろうに」
「部活をする余裕を持たせなきゃ、やってられないんだって」
相変わらず俺をこき下ろす佐伯に、ブーブー文句を言ってみせる。
「月岡、頼みがある」
唐突に、佐伯が前の席にいる悠真に声をかけた。呼びかけにすぐさま応じるように、くるりと振り返る悠真。机に突っ伏している俺を見、すぐに佐伯へと視線を飛ばす。
「西野の自宅を知ってるだろう?」
「うん、そうだね」
「悪いが足手纏いになる委員長を、送ってやってくれないか?」
佐伯からの頼みに、悠真は顔色を曇らせた。
「……俺が?」
「図書当番は俺がやっておく。済まないが頼まれてくれ」
感情の読めない面持ちで手早く告げると、佐伯は悠真の返事を聞かずに、さっさと教室から出て行ってしまった。
「悠真、悪い。無理しなくていいから」
あまりよくない雰囲気を感じて、恐るおそる話しかけたら。
「具合の悪そうな西野くんを、そのままにするなんてしないよ。帰り支度はできているの?」
「できてる。あとは帰るだけ」
真顔の悠真に返事をしたら、目の前で自分の帰り支度をはじめた。
「西野くん、スクールバック貸して」
「え?」
「持って帰ってあげる」
「そこまでしなくても……」
俺が渋ると悠真は足元に置いてあった俺のスクールバックを、自分の肩にかける。
(――悠真、俺のことなんて、なんとも思っていないのに、こうして優しくされると勘違いしちゃうだろ)
「スクールバック、テスト期間中でいつもより重くないし、全然平気だから。ほら早く帰るよ」
悠真は捲し立てる感じで告げるなり、俺の腕を掴んで引っ張る。
「悠真、ありがとな」
「副委員長の佐伯に頼まれたことだから」
そう口では言ったのに、頬が少しだけ赤らんでいることで、悠真が照れているのが見てとれた。
「それでもありがとな。すげぇ助かる」
ふらつく俺を支えるように、悠真はゆっくりとした足取りで教室から廊下に俺を誘う。
こうしてふたりきりで帰ることができて、俺はすげぇ嬉しかった。まるで、テストをがんばったご褒美をもらった気分だった。
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