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第五章 恋の鼓動と開く心23

***  千歳空港に着陸し、ここから市内にある千歳水族館に移動する。今日は学校側が決めたイベントをこなすために時間が限られているせいで、団体行動が少しでも乱れると、付き添いの先生にめちゃくちゃ叱られる生徒もしばしば……。 「お~い、みんな! 体力が有り余ってると思うけど、ふざけたりムダに騒いでB組が悪目立ちしないようにしてくれよな!」  列の先頭を歩く俺は振り返り、佐伯がイラついてブチ切れる前に、念を押すため一応注意を促した。 「なに言ってんだよ。悪目立ちしてるのは西野じゃん!」 「そうそう。朝から誰かさんの傍にぴったり貼りついてさ」 「飛行機の中でも、すっげぇイチャイチャしてたもんな」  などなど俺と悠真のことを、クラスメイトたちが口々に指摘した。 「ちがっ、イチャイチャなんかしてねぇって」  もちろん速攻で否定してやる。これに巻き込まれる、悠真のことを考えたら当然なんだ。 「してたしてた。ちょっと前までは月岡に西野くん呼びされて、距離があったのを埋める感じに見えたけど?」 「陽太、お願いだからムダに興奮して、フェロモン出すなよな。アピールしたい気持ちは、手に取るようにわかるけどね!」 「出さないし出す予定もない! 今日だって、しっかり微調整ができてるだろ!」  観光バスに乗るために二列にきちんと整列し、歩いて移動をしながらのお喋り。隣にいる悠真はキョどる俺の態度を見て、口元を綻ばせていた。 「ふふっ、陽太は本当に人気者だね」 「こんないじられ方をしてるのに、人気者って言えるのか?」  悠真の呟きに反応しなきゃと慌てて前を向き、あえて質問を投げかけた。 「陽太の人柄のおかげだと思うよ。どんな話題も暗くならずに、みんなが笑顔になれる。それって、本当にすごいことじゃないかな」  人のことなのに、自分のことのように嬉しそうにほほ笑み、褒めてくれたのがすっげぇ照れくさくて、頬がぶわっと赤くなる。 (――いかん。このタイミングでフェロモンを爆散したら、朝からの努力が台無しになるだろ)  慌てて深呼吸して落ち着こうとしている俺を見た悠真は、意味深な笑みを浮かべた。 「陽太は偉いね。どんなときでもフェロモンの微調整ができるなんて」 「悠真?」 「こうしてたまに不意打ちで、陽太がちゃんとできるようにチェックしてあげる!」  観光バスに先に乗り込みながら、悠真に告げられたセリフに「まさか――」という言葉が出てしまった。 「図書室で練習しなきゃって言ったのは、陽太じゃないか」  悠真はカラカラおかしそうに笑って、観光バスの奥に進む。俺は唖然としたまま、細身の背中を見つめるしかできない。 「クラスメイトだけじゃなく、修学旅行先でもほかの人に迷惑をかけないように、友達としてフェロモンの微調整の練習に付き合ってあげるよ」  俺は最後尾の席に座る悠真に、苦笑いするのが精一杯だった。  かくて、フェロモンの微調整を積極的にさせるための言動や友達発言など、俺としてはお手上げのものが連発されたことで、ショックを受けたのは言うまでもない。

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