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第五章 恋の鼓動と開く心24
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陽太の対応に、俺としては朝から困っていた――朝の挨拶を交わしてからというもの、俺の隣にピッタリ寄り添い、いつも以上に近い距離を保ったまま話しかける。
それは陽太が中間テストをがんばったご褒美として、俺が恋の指南を受けると言ったからなのはわかるけれど、友達以上の関係を築こうと必死になっている彼のことを考えると、心苦しさがあるのが現状だった。
「水族館では、基本的には班ごとで行動することになっているが、バックヤードツアーの申込みをしている者は、時間になったらツアーに参加するように。集合時間は厳守だぞ!」
B組の担任が大きな声で指示を出し、隣にいる副担任の長谷川先生はそれに倣うように何度も首を縦に振った。
「1班、俺と悠真以外はバックヤードツアーに参加だから、別行動しようと思う。とりあえず、集合場所に5分前行動でよろしくな!」
班長の陽太が手を振って、同じ班員に声をかけた。よその班もアルファの班長がそれぞれ指示を出して打ち合わせ。その後、各班の班長が集まり、自分たちの行動を共有するために集まって、話し合いをはじめる。
「月岡、大丈夫?」
離れた場所にいる陽太に視線を注いでいたら、背後から話しかけられた。振り返るとそこにいたのは、同じ班の成田くんだった。教室では席が離れているため、滅多に話をしないクラスメイトだったけれど、同じベタということで移動教室や体育などではたまに喋る間柄だったりする。
「大丈夫って、なにが?」
「西野と月岡を、クラスのヤツらが無理やりくっつけようとしてる雰囲気があるなって」
「ああ、まぁ確かに。組み合わせ的に、おもしろがってるところはあるかもしれないね」
笑いながら返事をしたら、成田くんは眉根を寄せて周りを見渡しつつ、声を潜めて返事をする。
「体育祭みたいな感じでクラスが盛り上がるのはいいけど、個人的なことで盛り上げるのは、なんか違うと思うんだ。だってそこには月岡の気持ちがあるのに、スルーされてるわけでしょ」
(成田くんは剣道部の副主将でしっかり者だから、自分の考えをきちんと持った人なんだな――)
「そうだね。実際陽太からの告白を断ったんだけど、いろいろあって友達関係を維持してる状態だし……」
「あ、やっぱり断ってたんだ」
「うん。友達以上には思えなかったから。あのときは――」
「ということは、今はなにか、西野のことを想えるようになってきたとか?」
ワクワクした表情で成田くんに訊ねられたけど、俺は首を横に振ってそれを否定した。
「陽太のことをどう想っているのか、自分でもよくわからないんだ。傍にいてドキドキするみたいな感じはないけど、ムダに頑張り屋な彼が心配で、気になっちゃうところがあって」
「それってなんか微妙そう。でもあまりにも無理ってなったら、遠慮なく僕のところに逃げていいからね。西野はクラスメイトからの信頼が厚い分だけ、月岡とくっつけてなんとかしようとする輩もいるし」
「ありがとう。逃げ道があると思えると、ちょっとは気持ちが楽になったかも」
笑顔でほほ笑みあっていたら、「悠真行くぞ」って陽太が背後から声をかけた。
「それじゃあね、成田くん。またあとで」
「うん、またあとでね」
陽太のことがきっかけで、こんなふうにクラスメイトと仲良くなれるとは思いもしなかった。そのことにくすぐったさを感じながら陽太の傍に駆け寄り、一緒に水族館を見学する。
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