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第五章 恋の鼓動と開く心25
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成田と喋っていた悠真に声をかけたら、走ってやって来た。
「陽太お待たせ!」
「お、おう。まずは、なにから見る? 入口すぐ傍にショップがあるけど」
「最初は順路を辿ってみようよ。サーモンゾーンからだっけ?」
鞄から手早くマップを取り出した、悠真の手元を一緒に眺める。なんでも水量約300トンの、北海道最大の淡水大水槽がお出迎えしてくれるそうだ。
「いろんな種類のサケが見られるのが、結構楽しみだな」
「そうだね。どんな違いがあるんだろう」
声を弾ませて歩き出した悠真に、思いきって訊ねてみる。
「あのさ、悠真。さっき成田となにを喋ってたんだ?」
「成田くんはバックヤードツアー参加組だから、楽しんできてねって言ったんだ。どんな感じだったのか、あとで聞いてみようと思って」
「そうだったんだ、へぇ」
なにやら楽しそうに成田と喋っていたのは、そのことだったのかと、ちょっとだけ安堵した。ため息をつきながら歩き出した俺の隣で、悠真は弾んだ口調で話しかける。
「俺ってばドジっちゃってツアーの申し込み、すっかり忘れたんだ。中間テスト前でバタバタしていた時期だったしね。ちなみに陽太は、どうして申し込まなかったの?」
悠真に訊ねられたタイミングで、大きな水槽が俺たちの前に現れた。たくさんの魚が気持ちよさそうに泳いでいて、まるで海の中を見ているみたいだった。
「悠真が申し込んでなかったから、俺も申し込まなかったただけ」
「陽太?」
「だって、一緒に水族館を見てまわりたいじゃん。あ、なんかあそこに、透明なアクリルのベンチがあるぞ!」
勇気を出して悠真の右手を掴み、アクリルのベンチの傍に駆け寄った。
「陽太ってば、こんなことをしなくても、俺は迷子にならないよ。大丈夫だから」
「これって水槽に使われてる、アクリルガラスと同じ厚みなんだってさ。なんでも30センチあるんだって。すげぇな」
「…………」
傍にある説明書きを読んでも、悠真からのリアクションが返ってこないことで、手を繋ぐのを嫌がっているのかもしれないと判断。やんわりと掴んだ手を解放した。
「悠真ごめんな。どうしたら悠真がドキドキするのか、全然わからないんだ」
「俺もそういうの、本当にわからない。今までどおりじゃダメ?」
「ダメ……どうしても悠真をドキドキさせてみたい。体育祭のあのときみたいに」
即答した俺に、悠真は困惑の表情を浮かべる。
ライトアップされた水槽前の奥まった場所――恋人同士がイチャつくなら絶好の穴場なのに、俺たちの間には険悪な雰囲気が流れた。
「……悠真がさっき、成田と楽しそうに喋ってるのを見て、実は妬いてた」
「成田くんとは、なんでもないのに?」
「悠真の笑ってる顔、俺だけのものにしたいって思ってるせいだろうな」
肩を落として悠真の前を通り過ぎ、順路を歩き出した瞬間、ブレザーの裾を掴まれた感触に足を止める。
「あのね陽太……」
「なんだ?」
気落ちしたまま振り返った俺に、悠真は少しだけ慌てた面持ちで、左右に目を泳がせる。
「佐伯に言われたんだ。陽太が一條くんと一緒にいるところを見た俺の顔が、結構曇ってたって」
いつもより早口で喋る悠真の声が、耳の奥に残った。
「悠真それって」
「フェロモンを感じられない俺の心は、もしかしたら普通より鈍感なのかもしれない。でも体は、ちゃんと意思表示してるのかなって」
「なんだかな、それ――」
「心と体がちぐはぐすぎて、俺にもよくわからない。だけど俺は陽太の傍にいるのが、一番安心するよ」
言いながら柔らかい笑みを見せた悠真に、俺の胸がズギュンと撃ち抜かれた。思ったよりもそれが衝撃的すぎて、立っていられなくなりその場に蹲る。
「陽太、どうしたの?」
「どうしたのじゃねぇよ。なんで悠真をドキドキさせようとしてる俺を、ドキドキさせてるんだ」
「そんなつもり、全然ないのに。だって陽太の傍にいたら、ポカポカするんだもん」
蹲ってる俺の左手を引っ張って、強引に立ち上がらせた悠真。そのまま手を放すかと思いきや、繋いだまま館内を歩きはじめた。
「悠真、無理しなくていいんだぞ」
「無理してないよ。陽太のポカポカを堪能してるだけ」
悠真の気遣いのおかげで、水族館はものすごく楽しくまわることができた。ここでの思い出作りに、水族館専用のプリクラを悠真と一緒に撮ることができたのも、すげぇ嬉しかった。
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