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第五章 恋の鼓動と開く心27

***  俺たちを乗せたバスが次に向かったのは、エスコンフィールドHOKKAIDOボールパークだった。百名を越えた生徒の指定席は、もちろんいいものではなかったが、生でプロ野球を見ることができるドーム式の野球場に、普段は野球に興味のない生徒も、皆が揃って興奮した。 「陽太は野球見る?」 「見ない。部活の関係で、バスケの試合を見ることが多いかな」 「俺も見ないけど、こういう独特の雰囲気を感じながらプロ野球を観戦できるなんて、なんだかワクワクするね」  いつもより口数が多くなってる悠真の様子に、俺の唇の端が自然とあがる。 「試合がはじまったら、フードコートに行ってみないか? さっきは人だかりがすごくて、全然見られなかったし」 「うん、行ってみたい! 北海道ならではのものを食べてみたいな」  修学旅行というイベントのおかげで、あまり意識せずに悠真にアタックできるのがいい!  しかも高槻学園のヤツらは旭川空港着なので、今日はまったく気にする必要がないのも、さらによかった。 「ねぇ陽太、ここでしか買えない、特別なお土産があるかなぁ。お姉ちゃんに買ってあげたいんだけど」 「俺も父さんにお土産買う予定だから、一緒に回ってみるか?」 「本当? 良さげなものがあるといいね」  プロ野球の試合も気になったが、大きな施設を見るだけでもかなり見応えがあり、時間が足りないくらい。だけど班長として、時間の遅れの失敗はもう許されない。観光バスの出発する時間をきちんと把握しつつ、ドームの探索をふたりで徹底的に楽しんだのだった。 ***  観光バスが、エスコンフィールドHOKKAIDOに関連するホテルに到着する。今日はそこまで移動していなかったこともあり、修学旅行生の皆が元気いっぱいだった。 「おまえたち、騒ぐんじゃない。一般のお客さんもいるんだからな。迷惑をかけないようにしろよ!」  ピリピリする担任とは裏腹に、長谷川先生は一眼レフを片手に、ホテルに到着した面々の写真を撮影していく。 「西野、今日は偉かったな。フェロモンの微調整、ちゃんとできてた」  班員と一緒に宿泊する部屋に向かう最中、長谷川先生が後ろから俺に話しかけた。 「長谷川っち、俺を誰だと思ってるんだ」 「アルファのフェロモン爆散王、西野!」  得意げに言い放った長谷川先生のセリフに、悠真が肩を竦めながらぷっと吹き出した。 「悠真、そこは笑うところじゃないって!」 「長谷川先生って、本当におもしろい先生だね」 「そうだろう? 先生、ナイスネーミングセンスだよな」 「それを自分で言うとか、マジで信じられねぇ」  まるで学校でのやり取りの延長みたいなそれに、同じ班員からもツッコミがなされる始末。 (――これは部屋に到着しても、延々となにか言われそうだ……) 「悠真、部屋に荷物を運んでくれるか。俺、今日の締めの班長会議に出てくる」 「わかった。迷子にならないようにね」  俺から荷物を受け取った悠真は、意味深な笑みを浮かべて言い放った。 「なに言ってんだよ。俺、方向音痴じゃないし!」 「ふふっ。ドームの帰り道、笑いながら逆走しようとしてたのは、どこの誰だっけ?」 「月岡、ナイスツッコミ!」  またしても別のところからなされたアプローチで、俺が総ツッコミされる展開になり、逃げるように列から離れるしかなかったのだった。

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