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第五章 恋の鼓動と開く心28
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陽太の荷物と自分の荷物を両手に、指定されていた部屋に到着。すでに布団が敷かれていて、各々好きな場所で寝ることになった。
「月岡は西野の隣で大丈夫?」
成田くんが、離れたところから問いかけた。
「俺は大丈夫だけど陽太の寝るところ、班長として動きやすい壁側のほうがいいかなぁ」
「月岡、心配するところはそこじゃないって」
別の班員が口にした意味がわからず、首を傾げてしまった。
「西野の好きな相手が隣にいるのって、危険度がマックスだろ」
「陽太はそんなことをしないよ」
俺が即答すると、班員それぞれが困惑の表情を浮かべて目配せする。
「西野を信頼してる月岡には悪いけど、こればっかりは大丈夫って言えない」
「成田くん?」
「今日一日、いつも以上に密着されてるのを見ているし、その勢いのままに布団に入られたら、月岡はしっかり拒否れる?」
注がれる成田くんの視線にきちんと合わせて、明瞭な口調で告げる。
「嫌なことは口にして、ちゃんと陽太に伝えてる。ああ見えても彼は、ある一定のラインを決めて守っていたよ」
手を繋ぐ以上の接触は、一切おこなっていない。口では腕を組みたいなんて言ってたのに、それをする素振りすら俺に見せなかった。
「陽太は俺に嫌われることは、絶対にしない。だから隣でも大丈夫」
「まぁなぁ。俺らもいるし、変なコトをしないとは思いたいけどさあ」
「俺は陽太を信じてる。みんなも陽太を信じてくれないかな?」
一人ひとりの顔を見ながら、お願いしてみた。
「西野はテストのヤマ張りしたり、体育祭でも応援団長やったりして、B組に貢献してるヤツだけどさ」
ほかにも陽太を称賛する言葉を告げたので、このタイミングでそれに乗っからなければと、嬉々としてみんなに語りかけた。
「今回の中間テストのヤマ張りを一緒にして、改めて陽太はすごいなって思ったんだよ。自分の勉強時間を割いて、クラスのために無償でやっていることだからね」
「まぁ確かにな。これまで小テストもさりげなく知らせてくれただけじゃなく、ヤマ張りもしていたわけだし」
誰かがボソッと告げたセリフに、俺は声を大にして答えた。
「そうそう! しかも陽太は、部活をやってるのにだよ。しかも中間テストは全教科だしね。実際に手がけてみたら、すごーく大変だったんだ」
「でも今回は、月岡と佐伯が手伝ったって聞いたけど」
「うん。実は佐伯と俺、アルファの陽太の実力が知りたくて、ちょっとした|枷《かせ》を彼につけてしまったんだ。その関係でヤマ張りを手伝ったんだよ」
「|枷《かせ》ってどんなこと?」
俺の言葉に反応した班員が、興味津々な表情を浮かべて傍に集まってしまった。
「あ、えーっと……」
「あの佐伯がっていうのが、すげぇ気になるよな」
「ほんとそれ! ふたり揃って、西野になにをやらせたんだか」
早く白状してしまえという熱気が、雰囲気になって伝わってきた。大変なことになってしまったのを肌で感じて、あわあわしてしまう。
「とっとと言わないとここにいる全員で、月岡をくすぐってしまうかもしれないよ?」
なぁんて信じられないことを成田くんが告げると、息を合わせたみたいに班員のみんなが両手をあげて、指先を空中でもちょもちょ動かす。
「ちょっと待って。言うから、みんな手をおろしてよ!」
俺からのお願いに、みんなが含み笑いで目配せして、両手を静かに膝の上に置いてくれた。
「その……陽太の中間テストの結果が学年5位以内になったら、俺が恋の指南を受けるっていう|枷《かせ》――」
「キツっ! なんだその|枷《かせ》、絶対に無理だろ」
「さすがは、佐伯って感じのお願いだな」
「それを受ける西野もすげぇよ」
俺が吐露した途端に、みんなが驚愕の表情を浮かべて、口々に感想を述べていく。
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