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第五章 恋の鼓動と開く心29

「だけど陽太はテスト当日に風邪を引いてしまって、成績の結果が9位だったんだけど。それまでのがんばりを、俺は傍で見ていたからね。だから、恋の指南を受けることにしたんだ」 「あーそれでか……修学旅行中にイチャイチャしていた、本当の理由!」  成田くんが声をあげたら、ほかの班員も納得した顔でそれぞれ頷いてくれた。 「俺ね、フェロモンを感じない体質で、恋する気持ちも正直わからないんだ。陽太の告白も一回断ってる」  思いきって告げた俺の言葉を、みんなは真剣な顔をして耳を傾ける。最初は陽太が俺を襲うかもしれないという心配で、あまりいい雰囲気じゃなかったけれど、陽太の|枷《かせ》の話をした途端に流れが変わり、とても話しやすい感じになった。 「月岡が告白を断ったのって、西野を名字呼びしたあたり?」 「うん、そう。俺としては友達として交流していたのに、陽太は違う気持ちでいたってことがショックだったんだ」 「それでも西野は諦めずに、中間テストで5位を目指したのか。すげぇメンタルしてるのな」 「僕も無理。だって告白を断られてるのにチャレンジするとか、本当にすごい」  ほかの人の口から陽太のことを聞くだけで、彼が真面目に俺のことを好きだってことをしみじみと思い知る。 「あのね俺、今回の修学旅行で陽太のこと、ちゃんと考えてみようかなって――」  計画しているんだと言いかけた俺の両手に、班員たちが次々と手を重ねた。 「あの、みんな?」 「西野にきちんと恋の指南を受けて、恋をする気持ちがわかるといいな。俺たち応援してるからさ」 「月岡、がんばれ!」 「わからないことがあれば、相談にのるから遠慮なく声をかけろよ」  かけられるあたたかい言葉の数々に、涙が出そうになったそのとき、遠慮がちなノックが部屋に響いた。その音に素早く反応した成田くんが颯爽と立ち上がり、扉を開けたら、3班の班長の斎藤くんが顔を覗かせる。 「悪いけど西野の荷物、僕にくれないかな? 夜だけ、部屋を交換することになったんだ」  斎藤くんが口にしたセリフに、班員が揃って驚いた表情を浮かべる。俺は傍らに置いてあった陽太の荷物を手にして、斎藤くんの傍に駆け寄った。 「陽太と斎藤くんが部屋をチェンジするって、どういうことなのかな?」  思いきって問いかけた俺に、斎藤くんは切なげなほほ笑みを頬に滲ませて答える。 「修学旅行という長丁場の旅行で、きちんと寝れないとクラスメイトに迷惑をかけるから。なんて西野本人は言ってたけどね。実際は、大好きな月岡と一緒にいたら寝られないからだろうなぁ」 「西野がみずから配慮したってことか。僕らの心配を見越していたんだな……」  俺の横にいた成田くんが、ぽつりとつぶやく。 「今はそのことを、西野が佐伯に報告しているところなんだけどね。『最初から月岡と別の班だったら、そんなことをしなくてもいいだろ!』なんて言われちゃってさ。西野が困り果てている間に、荷物を取りに来たってワケ。これ僕の荷物だから、西野が寝る予定だった場所に置いてくれると助かる」  陽太の荷物を手渡して、斎藤くんの荷物を受け取った。 「それと陽太からの伝言。もう大浴場が学校側に解放されているから、1班から先に使うようにって。それじゃあね!」  最後は明るい口調で告げるなり、急いで出て行ってしまった斎藤くん。きっと困っている陽太を助けるために、佐伯のもとに駆けて行ったのかもしれないな。 「西野が気を遣ったおかげで、僕らの心配は杞憂に終わったね。月岡が大丈夫でも、西野は大丈夫じゃなかったと」  俺の手から成田くんが斎藤くんの荷物を奪取し、陽太が寝るはずだった布団の上に置いてくれた。 「月岡、西野は本当にいいヤツだからさ。アイツのこと、ちゃんと考えてあげてくれよな!」  最初は否定的なことを言っていた班員のひとりが、思いやりのある言葉を投げかけた。 「うん、わかった。いろいろありがとう」  教室ではできない、そういうやり取りがすごく貴重に思えたことで、修学旅行に参加してよかったって、改めて思えたのだった。

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