74 / 89

第五章 恋の鼓動と開く心30

***  悠真と別々の部屋で寝た翌朝、朝食のランチバイキング会場で、運よく鉢合わせした。 「陽太おはよう! よく眠れた?」 「おはよ。結構、疲れてたみたいでさ。同室のメンツの中で、一番最初に寝ちまった。周りの騒がしさなんて、気にならないくらいにぐっすりだった……」 「そうなんだ。俺たちは静かに、枕投げを楽しんだよ」  悠真は俺のすぐ隣で柔らかい笑みを浮かべながら、カップの中にコーンスープを注ぐ。 「ハハッ、さすがは、体育会系ばかりが集まってる班だからな。それ、本当に静かにできたのかよ?」  俺はコーンスープ鍋の隣にある中華スープを、カップに注いだ。 「だって、無言でやるのがルールだって誰かが言ってね。笑いをかみ殺しながら、みんなで枕を投げて楽しんだんだよ。陽太はバターロール食べる?」  悠真はトングを手にして、トースターにバターロールをふたつ投入する。 「俺はクロワッサンが食べたい。ふたつ隣に並べてくれると助かる」 「わかった。1分ほどお待ちくださいだって」 「その間にサラダを取り分けるけど、嫌いなものはあるか?」  悠真の後ろを通り過ぎ、サラダコーナーの前に立ちながら訊ねた。 「基本、好き嫌いはないよ。陽太のセンスにまかせるね」 「まかせろ! 栄養満点のサラダを作ってやる」  俺がセレクトしたサラダを悠真が食べると思ったら、俄然やる気が出てしまった。気づいたら皿の上には、大量の葉野菜やトマトが――。 (まるで、悠真を想う俺の気持ちじゃん……)  一度皿に入れたものは返却不可なので、悠真用の皿の中を綺麗にセッティングし直し、俺が食べる用の皿の上がすごいことになったのは、言うまでもない! 「陽太、パンが温まったよ……って、ちょっとお皿の上が大変なことになってるけど、本当に食べ切れるの?」  トースターからパンを取り出し、俺のクロワッサンも持って来てくれた悠真が目を丸くした。 「おうよ! 朝からしっかり食べて、札幌散策に備えるんだ!」 「張り切るのはいいけど、食べすぎてお腹が痛くなっても知らないよ」  呆れ顔した悠真のトレーに、綺麗に盛りつけたサラダを載せてあげた。 「ご忠告感謝! 悠真はそれくらいで大丈夫だろ?」 「うん。量もちょうどいいし、俺の好きなスイートコーンが入ってるのがいいね」 「ドレッシング、いろんな種類があったから、あえてかけてないぞ」 (悠真と相思相愛で付き合うことになって、同棲したらキッチンでのやり取りはこんな感じになるのかな――)  まるでそれの予行練習をしてるみたいだと思ったら、顔が自然とニヤけてしまう。 「陽太、さっさとドレッシングをかけて退けてあげないと、後ろが詰まっちゃうよ」 「うわっと! 悪い悪い、ついボーっとしちまって」  ぽわ~んとしている最中にいきなり声をかけられ、危うくトレーをひっくり返しそうになった。 「寝ぼけた陽太は、本当に危なっかしいね。ほら、ちゃんとしなきゃ!」  なんて悠真にお世話になりまくりながら席に着き、朝食を食べることになった俺。もちろんすべて完食し、1班の部屋に戻って班のヤツらと合流。計画していた札幌散策にレッツゴーしたのだった。

ともだちにシェアしよう!