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夢中で口を噛み合っている間に、素っ裸になっていた。 そのまま口を汚しながら、とっくに勃ったペニスを擦(なす)り合った。 レオの息を吸いながら、硬いアヌスにペニスを擦(こす)りつけるだけで射精した。 レオのペニスをしゃぶっているうちに、あっさり復活したペニスにゴムを被せた。 力任せに抜いた精液を味わう余裕もなく、逸(はや)る腰でレオをこじ開けた。 のたうって呻くレオを舌でねじ伏せながら、ぎちぎちと嫌がる肉を慣らした。 肉が弛めばほどなく、俺にしがみついたレオは、いやらしく振る腰で迎える俺をしごいた。 女みたいに吠えるレオの顔を舐め回しながら、狂ったように腰を振っていた。 まるで、濁流に押し流されるように。いつかの夜より激しく、乱暴に、剥き出しの衝動をぶつけながら快楽を貪り合ったのは、遊びじゃなかったからだ、と思う。 2時間もまぐわって力尽きたレオと俺は、ボロボロのダストクロスみたいな体で重なっていた。 懲りないレオは、仰向けにひっくり返った俺にシックスナインの格好で乗っかると、萎(しぼ)んだペニスのゴムを取って咥えた。 ここにきて初めて知る舌技はぞっとするほど気持ちいいが、射(だ)すものを射(だ)しきって、もう勃つモノも勃たない。 「しなくていい」と言っても聞きやしないレオは、俺の目の前で下品に腰をくねらせた。 芯の抜けたペニスから会陰へ舐め上げてやると、まだ僅かに開いたままのアヌスをひくつかせてよがったレオは、また俺に吸い付いた。それから、俺をタマの裏まで丁寧に舐め回して満足したらしい彼は、俺の首元に顔をすり寄せて甘えた。 抱き寄せた体は汗まみれで、擦(こす)れて張り付く肌が心地よかった。 「…ねぇ、のーまん」 「…ん」 「だいすき」 「………」 歌うように囁く声は、顔を見なくても笑っているのがわかった。 返す言葉が見つからない俺は、黙ってレオの柔らかな髪を撫でた。 セックスはともかく、彼を満足させてやれるビジョンは今だって見えていなかった。 「…さわっていい?」 腹を撫で回していた手が、そっと右の胸を探った。 頷くと、静かに伸びた指が傷痕の端に触れて、尻のあたりがムズムズした。 「…くすぐったい」 「…これは?」 傷に柔らかく被せた手は、しっとりと温かかった。 「へーきだ」 「…すごく、しあわせ…」 胸の真ん中にため息を落としたレオは、それきり、口を閉じた。 「………」 たった今、レオが腕の中にいることは素直に嬉しいと思えたが、これを幸せと呼べるのかわからない。 「俺もだ」と答えるべきか逡巡している間に、レオは眠ってしまったようだった。 天窓に目をやると、月は消えて、薄曇りの空しか見えなかった。 目を閉じて、すうすうと繰り返す心地よい寝息を聞いているうちに、眠りに吸い込まれた。 * * 翌朝。アラームで起きると、爆睡してるレオに抱き枕にされていた。 ベッドを出てシリアルとトーストとコーヒーの朝食を食べ、シャワーを浴びて身支度を整えるまで、普段と変わらなかった。 出がけに寝室を覗くと、レオは相変わらずすやすや眠っていた。 「レオ、朝だぞ、俺はもう行く」 声をかけると、目を覚ましたレオは不機嫌そうな顔を向けた。 「…レオじゃなくて、ベイビーとかダーリンじゃないの…?」 「レオはレオだろ」 「おはようは?」 「すまん、おはよう」 「どこ行くの?仕事?」 「当たり前だ、出てくときこれ頼む」 サイドテーブルに鍵を置くと、レオが手を掴んだ。 「ちゅーして」と眠い目を細める彼は、寝乱れていてもキレイだった。 屈んだ俺の首を抱いて、レオは朝からねっとりとしたキスをねだった。 「…朝だぞ?」 「ボクはいつもこう♡」 部屋を出ようとした背に、「ハニーとかスイートハートって呼んでもいーよ」と楽しげな声が追いかけてきた。 「…お前は、俺のレオ、だろ」 振り返ると、手枕でニヤニヤしてるレオは、ただただ幸せそうに見えた。 家を出ると、案の定、雨だった。 音のない雨を避けながらバス停に向かう胸の内に、何か温かい、小さな灯(ともしび)のようなものが宿っていた。 それから夜まで、レオが何をしていたかは知らない。 この日は、ブリクストンのナイトクラブで未明に発生した発砲事件の捜査協力の要請を受けて、夜まで奔走した。つまり、よくある忙しい一日だった。 仕事を切り上げて劇場街(ウエストエンド)で飯を食べ、歓楽街に着いたのは22時過ぎ。既に街(ソーホー)では、「レオが売りを辞めたらしい」という噂が広まりきっていた。 2番ローテのパブで飲んでいると、店主が噂の真偽を俺に聞いた。 「そう聞いてる」と答えたおかげで、明朝までには確定事項として知れ渡るだろう。 カウンターで飲んでいたスタンド※のオヤジに今日の事件の枝葉に繋がりそうな情報を聞いて、話が済むと、オヤジがレオと俺の関係を聞いた。(※新聞販売店) 「悪くない、詳しくはアイツに聞いてくれ」と答えたところで、スマホにレオから「どこ?」とメッセが入った。 エドワード劇場の向かいのバーで落ち合ったレオは、「今日はカムデンに遊びに行ってたの」とニコニコ飲んでいた。彼の身なりはパッと見いつもと変わらないが、化粧はかなり薄く、香水も大して匂わなかった。 カムデンに行ったのはなんでも古い仕事仲間がいるとかで、心機一転の再出発の報告をしたらしい。再出発の意味がわからなかったが、聞いてもいないのにあれこれと話すレオはとても幸せそうで、そんな彼を見ていれば、胸の内の温もりがじわりと広がった。 23時を過ぎた頃、バーを出たレオと俺は、俺のウチへと足を向けた。 雨は夕方には上がり、ぬるい湿気を含んだ大気には青い春の匂いが満ちていた。 繋いだ手をぶんぶん振りながら歩くレオは、自分のフラットに帰る気はさらさらなさそうだった。 街(ソーホー)を抜けるまで、すれ違った何人かの顔見知りがわかったような目線をくれたが、面倒だからスルーした。 隣には俺の男がいるだけで、別に何も、特別なことはない。 帰宅後。 バッグから化粧水やらなんやらを取り出したレオは、昨夜以上に我が物顔で過ごしていた。 風呂から出た後、スマホで音楽を流しながらハンドミラーに向かって熱心にスキンケア(っていうのか)をする姿を眺めていると、それがあまりにも自然で、なんだか同棲でもしているような感覚になった。 ベッドに入ると、レオは俺を抱き枕にした。 天窓から覗く雲が切れた空には、今日こそ満月が見えていた。 「ねぇ見て、きれい」 そう囁く声は、明日も、明後日も同じことを言うんだろうと思った。 「…そんなに感動することか?」 「ノーマンは冷めてる」 「…」 「毎晩違う空を切り取るフレームだよ…素敵じゃない?」 「…あぁーーー」 「何、あぁって」 「いや、窓きれいにしとかなきゃと思った」 ぶはっと吹き出したレオは、しばらく俺にぎゅうぎゅうしがみついていたが、セックスに及ぶ気配はなさそうだった。 「するか?」と聞くと、「したいなら」と言われた。 「もう遅いし、ノーマンは酔っぱだし、少し溜めてからするのがちょうどいい」 そう呟いたレオは、幸せそうに笑っていた。 「…そーか」 抱き寄せたレオは温かく、柔らかく、優しい香りがしていた。 今、腕の中にあるのは、随分と唐突で、全く思ってもみなかった、妙なタイムラグの末に結実したクリスマスのマジック、だろうか。 うとうとしながらそんなことを考えている間に、眠りに落ちていた。

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