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◉1◉とんでもない呼び出し(てっしょー、ミナカイ)_3
「あっ、んっン」
開かれたシャツの間に鉄平が入ってくる。サラサラの髪が揺れると、肌を滑って心地いい。その髪に指を絡めてみると、ぐいっと背中を支えた状態で体を持ち上げられた。
「わっ、あ、ああっ」
そのままシャツを引き抜かれ、俺の上半身が露わになる。明るい室内で鉄平に見られるだけでも恥ずかしいのに、隣のベッドの上には澪斗さんと海斗さんもいる。
二人は、俺が鉄平に翻弄される姿をただ黙って見ていた。
「澪斗さんが言うように……」
「あっ、ちょっ、そこでしゃべると……ンっ」
鉄平は俺の胸の尖を口に含んだ状態で、突然澪斗さんに向かって話し始めた。話しかけられた澪斗さんも驚いているし、俺はくすぐったくてたまらない。
本当に何をしでかすかわからないから、心臓がちぎれそうなほどに暴れ回っていた。
「目的が海斗さんのケアだとすると、クラヴィーアを飲みながら乾燥精子作ればいいと思うんですよね。蒼さんはそうしてて、長期でいない時に翠さんに何かあったら、まずはそれを使うようにしてると聞いたことがあります」
それは俺も知っている。潜入捜査が長期化するときには、奥歯の奥にそれを詰めたフィルコというツールを仕込んでいくとも聞いたことがある。
そんな風に翠さんを思う蒼さんの気持ちがうんだツールは、他にもいくつかあるらしい。
「ああ、うん、確か随分前からそうしてるんだよね。特に翠くんは蒼くんしかガイディングが出来ないから、彼が亡くなった後のことまで考えてるって聞いたことはある」
「そうでしょう? それに、VDSって元々そのあたりまで考えて運営されてるはずなんです。海斗さんはVDSに所属してるんですから、そのことを会社に報告したらどうですか?」
鉄平は俺を抱きしめたまま、体を回転させた。そして俺をうつ伏せにする。少し恥ずかしさが和らぐかと思いきや、あっという間に服を脱がされてしまった。
驚いている間もなく、すぐに片手で抱きすくめられた。そして、躊躇いなく後孔に指をあてがわれる。
「えっ、あ、ちょっと……んっ!」
どこから取り出したのか、甘い香りのするオイルを纏った指が入り口をくすぐる。そこは撫でられるだけで腰が揺れるほどに気持ちがいい。
「あっ、あ、……っあ」
ふわふわと夢見心地でいると、つぷ、と指が入ってきた。その刺激で体がビクンと跳ねる。俺のその反応に、鉄平は欲の暴走を堪えようとして息を殺した。
指の動きに連動した水音が耳へと伝わり、その心地よさにお腹の奥にギュッと力が入っていく。それを何度か繰り返されると、もう二人に見られていることを気にしている余裕は無くなっていた。
鉄平が俺の体を愛する度に、後ろが鉄平の指に絡みつく。それに気づいたことで、さらに感度が引き上げられていった。
「んあっ、あ……」
気持ちよさに蕩け始めた思考の中で、俺はふと気づいた。鉄平は意図的に俺の感度を引き上げている。
ガイディングで触覚の解放をしているのだろう、いつもの数倍のスピードで体が鉄平を欲しがっていった。
「ガイドとしての務めの話なら、ツールを使えばセンチネルは守ることが出来ます。でも、俺思うんですけど……。澪斗さんの悩みってそこだけじゃないと思うんですよね」
鉄平は、俺の体の準備のスピードを上げながらも、淡々と話し続けていく。だんだん中心に溜まっていく熱に焦れて、俺は体を捩った。
「センチネルのケアは、正直体液さえあればガイド本人は必要ないんですよ。ただ、そこに愛情とかぬくもりがあると、相手の気持ちも乗るから回復が早くなるし、幸福度が彼らを守ります。でも、その二つは別に切り分けてもいいものだと思うんです」
「……どういう意味だ?」
海斗さんが怪訝そうに鉄平に尋ねる。それはそうだろう。俺にも意味がわからない。センチネルの回復のためには、ガイドの体さえあればいいっていうのか? そんなの、黙って聞いてられないと思ってしまった。
「なあ、それってガイドとセンチネルの関係性に心はいらないって言いたいのか?」
すると鉄平は目を見開いて驚いた。自分の意図するところと全く違う解釈をされたようで、必死になって被りを振っている。
「いやいや、そんなこと言ってないよ。俺が翔平のことをどんなに好きなのかわかってないのか? 心だって欲しいに決まってるじゃないか。なんでそうなるんだよ」
「いや、真壁。悪いが俺にもそう聞こえたぞ。愛情と体を切り分けるってどういう意味で言ってるんだ?」
海斗さんも俺と同じように感じたらしい。どうやら澪斗さんもそうみたいだ。
「あれ? わかりにくかったですか? そっか、あのですね、ケアと恋人のセックスでこれから必要なことが変わるんじゃないですか? ってことを言いたかったんです」
鉄平はそういうと、また俺の向きを変えた。今度はなんと、二人の方へ顔が向くように横向きにさせられている。
真正面から二人に自分の全てを見せている状態だ。恥ずかしくてたまらない。
「ねえ、鉄平。ちょっとこっち向くのは……いあ、あ、ああ、あああんんっ!」
横向きに寝かされたまま、鉄平が中へ入って来た。
後ろからギュッと抱きしめられた状態のまま、全部がみっちりと入っている。肌がピッタリと触れ合った状態で、二人の間には少しの隙間も存在しない。
それでもまだ腰を俺に押し付けている。もっと深く繋がりたいという気持ちが、そこから押し寄せてきた。
「あっ……あっ、あ」
肉体的な繋がりに、もっと深い繋がりを求める心が乗る。そのガイドの叫びが、肉体を通して突き刺さるようだ。
ボンドの契約を果たしている俺たちは、そもそも魂自体がすでに混ざり合っている。これ以上ないほどに繋がりあった者同士だ。
「……ケアだけなら、精子を提供すれば済みます。でも、そうじゃないから……。海斗さんを愛してあげたいから、澪斗さんは悩んでるんですよね」
俺の体に絡みつく鉄平の腕は、俺に傷をつけないように、でも限界までくっつけるようにと、物理的な距離を無くそうともがいているように見えた。
きっと今鉄平は思い切り腰を打ち付けたい欲に駆られている。でも、考えがあってそうしないのだろう。縋り付くように俺の体に顔を押し付け、ずっと息を吐いて自分をコントロールしていた。
「恋人同士のセックスは、ガイドが動かないといけないという決まりはありません。それに、タチが攻めないといけないっていう決まりもありません。だったら、海斗さんが動くことに罪悪感を感じる必要はありませんよ。そうでしょう?」
遠くの鏡に、俺たちの顔が反射で写っているのが見えた。鉄平の顔は紅潮し切っている。かなり限界を迎えているだろう。
「でも、海斗さんの体が心配だというのなら、恋人のセックスにガイドの力を利用すればいいと思うんです」
「……ケアでは無い時にガイディングするということ?」
驚く澪斗さんに、鉄平はニヤリと笑った。
「そうです。そうすると、こうなります。翔平、ごめんな。ちょっと頑張って」
そういうと、抱きしめていた手を解き、身体中を愛撫し始めた。
優しく滑るその手は、どこに触れても俺の意識を飛ばしそうなほどの快楽をうむ。その波に翻弄されているところを、鉄平は容赦なく穿ってきた。
「あっ! や、あ、あんっ!」
しかもそうしながら、俺の感度をどんどん上げていく。体がぶつかるたびに激しく昂り、あっというまに限界が近づいて来てしまった。
「ああっ、んん、ん、うっ」
下腹部を中心にぎゅうっと何かが迫り上がってくる感覚が続く。その波が長引くほどに、声は短く途切れがちになっていった。
「あっ、んっ、あ、あっ!」
鉄平の動きは、いつもより遅い。でも、身体中に広がる気持ちいい波が、いつもより強くて、長くて、深い。
「あーっ! あー! い、いやだっ! なんだこれ……」
何かに吸い寄せられるような感覚と共に、自分が鉄平の中で溶けて混ざっていくような感じがした。
契約を交わした時の夜と同じような、無我夢中になる繋がりに溺れてしまいそうになっていく。
「ああ、てっぺ……、好き。やば、死ぬ……」
「ん、俺もやばい……。翔平、少し嗅覚上げるからな。俺の匂いを感じてて」
「え? なにそれ、えろ……あっ!」
そう言われた途端に鼻の感覚がスッとクリアになった。鉄平の香りが濃い香水のように鼻腔に押し寄せて来る。それを吸い込んだ途端に、俺は激しく飛沫を巻き上げた。
「ああんんんっ!」
何度も体が跳ねた。息をするのを忘れるほどに激しい波に襲われた。溺れそうになりながらもなんとか生き延び、そのままベッドの上に倒れ込む。
俺の下にあるシーツは、いつの間にかびしょ濡れになっていた。
鉄平は肩で息をしながら、俺に何度も口付けた。そして、軽いハグと共に
『ありがとう翔平』
とテレパスをくれる。その優しく触れる手からは、ずっと
『愛してるよ』
という気持ちが流れ込んでいた。
しかし、感動も束の間だった。
鉄平はすぐに俺から離れると、澪斗さんの方へ顔を向ける。
「澪斗さん、わかりました? 俺、最初は挿れたままほとんど動きませんでした。で、その後はガイディングで触覚と嗅覚を解放してあげました。翔平は聴覚が元々敏感だから、その辺は調整してなくて、海斗さんに必要だったら……」
信じられないほどの速さと深さで抱かれた俺は、どうやら体がついていけなかったらしく、ぐったりして動けない。
そんな俺の隣で、鉄平は澪斗さんへガイディングを利用した恋人セックスのレクチャーを始めた。
「信じられない……今イったばっかりなのに、なんであんなに冷静に話せんの? 澪斗さんも普通に話してるし……」
鉄平なんてまだ兆したままなのに、と思いながらぐったりと横になっていると、突然体が暖かい物で包まれた。
驚いて振り返ると、海斗さんが俺の体を丁寧に拭いてくれているところだった。
「か、海斗さん! 何してるんですか、社長に怒られます!」
会社の上役に事後の世話をされるなんて、あっていいわけがない。慌てて立ちあがろうとすると、力が入らずにまたベッドに倒れ込んでしまった。
「いや、これくらいさせてくれよ。いくら自分たちが困っていたからといって、こんなことをさせてすまない。澪斗が言い始めたことなんだけれど、真壁なら空気を読まずに断ると思ったんだけどな」
海斗さんは何度も申し訳ないと言って頭を下げた。
俺はその姿を見ていると、なんだか少し悲しくなってしまった。
「でも、言葉で説明されるだけよりもわかりやすかったんじゃないですか? 鉄平は説明が下手だから、ガイディングはケアでしかしてはいけないという思い込みを捨てろって言いたいんだってこと、多分ずっとわからなかったですよね」
俺がそういうと、海斗さんは申し訳なさそうに笑いながら、
「そう言ってくれるとありがたいね。でも、また相談に乗ってくれって言ったら流石に嫌だろう?」
と聞いてきた。
俺はバカなんだ。自覚はある。ついうっかり、言ってしまったんだよ。
「俺たちでお役に立てるなら、いつでもどうぞ」
それを鉄平と澪斗さんがしっかり聞いてた。
「じゃあ、今度は僕らがするのを見ててくれない? 色々と指導お願いしたいんだ」
「はあっ? いや、それはちょっと……」
さすがに無理だろうと鉄平の方を見てみると、あいつは何故か乗り気になっている。
「あ、今からでもいいよ?」
そう言ってにこやかに笑う澪斗さんが、なんだかこれまでのイメージと違い好きて戸惑ってしまった。
「……見る目が変わってしまったのは、仕方がないことだよな?」
鉄平にそう問いかけると、
「翔平、甘いな。あの人は多分昔からド変態だったと思うよ。海斗さんからいつもの性事情聞いてみな?」
と答えながら笑った。
澪斗さんはとても元気そうに笑っていた。今はあの悲しい目をしていない。
「……まあ、いっか」
目の前で三人の変態が論議をする中、俺はそれを見て幸せに浸ることにした。(了)
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