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第3話

「誰かあるか! 今すぐこの者をここから連れ出せ!」 「っ! リオール様っ、なぜ……っ!」  リオールの言葉に天蓋の外から手が伸びてオメガはあっという間に連れて行かれた。 「殿下、いかがなさいました!」  陽春は焦った様子でリオールに駆け寄り、汗のかいた額を柔らかい布で拭う。 「……水を」 「ただいま」  胸の奥が焼けるようだ。  熱は治まるどころか、残り香に触れるたび、ますます反応が悪化している気がする。  差し出された水をゴクゴクと飲み干すが、鼓動が鎮まらない。 「陽春」 「はい」  俯くリオールの下肢をみて、ハッとした陽春は静かに頭を下げた。 「妾妃様をお呼びしますか」 「……いや、少し外に出る」  ふらつく足取りで寝殿を出て、夜の庭に向かう。あの香りがする場所から少しでも離れた方がいいと思ったのだ。  そのまま熱が治まるまで庭を散策し、寝殿に戻れば香りは消えていた。けれど日はもう登り始めている。  ──侍従達には悪い事をしたな。  思わずそう反省していたところに、陽春が侍従から何かを耳打ちされ傍に来る。 「昨夜のオメガついてのご報告が」 「ああ……。そういえば、あのあと家に帰ったのか。自分の事ばかりで気にかけてやれなかった」 「いえ。現在は地下牢に収監されております」 「!」  その報告を聞き咄嗟に立ち上がり、ああ……と頭を抱えた。  あの時リオールが『連れ出せ』と強く言ったせいで、侍従達はオメガが不敬を働いたと勘違いしたのだ。 「すぐに解放しろ」 「かしこまりました」  すぐさま支度を整えたリオールは、あのオメガに謝らなければと部屋を飛び出した。  まだ王宮内にいるだろうか。  急ぎ足で探すが、目的の姿は見当たらない。  陽春の制止も無視して、門を抜けて外へ飛び出す。  そしてほどなく、銀髪を揺らして歩く小さな背中を見つけた。 「っ、待て!」  大声を張上げると、オメガは驚いた様子で振り返る。  すぐ近くまで駆け寄り、息を整える間もなく口を開いた。 「良かった、まだ、近くにいた」 「……」  安堵と後悔の入り交じった声でそう言うと、慌てた様子で頭を下げたオメガ。  彼の顔には、少し恐怖の色が滲んでいた。

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