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第4話

 遅れて陽春たちが追いついてくる。  けれどリオールは、目の前のオメガから視線を外さなかった。  昨日感じた甘い香りは、今はもうしない。  それでも、胸の奥がドクリと音を立てる。 「そなたは目隠しをしていたので私の顔は見ていないと思うが、私は皇太子リオール・エイリーク・エーヴェルだ。昨日は……本当に申し訳ないことをした」 「め、滅相もありません……!」  反射的に出た言葉だろう。  きっと心の内では、どうしてあんな目に遭わなければならなかったのか、そう思っているに違いない。  けれど再び捕らえられるのが怖くて、正直に言えずにいるのだ。 「少し、話せないだろうか」 「ぇ……?」 「昨日のことをちゃんと謝りたい」  オメガが顔を上げる。  不思議そうに見上げてくるその瞳は、澄んだ琥珀色。光を受けて、どこか切なげに揺れていた。 「それに……私の勝手で追い出したうえ、さらに捕らえさせてしまったと聞いた。昨日の分の報酬も、きちんと支払う。だから少しだけ……話がしたいんだ」 「……私は不敬を働いて捕らえられたのでは……?」 「違う!」  思わず強い声が出る。  驚いたようにオメガが瞬きをした。 「そなたを連れ出せと言ったのは……。そのことも含めて、話がしたいんだ。時間はあるだろうか」  オメガは戸惑いながらも、そっと小さく頷いた。 「……時間はあります」 「! よかった。案内する。ついてきてくれ」  オメガの「はい」という控えめな返事が聞こえ、リオールは踵を返し王宮に向かった。 □  自室にオメガを招き入れたものの、リオールはどうにも落ち着かず、顔を見られないでいた。  話がしたいと言い出したはいいが、どこから切り出せばいいのか分からない。  だが、このまま沈黙していては、また後悔する。  そう思い、意を決して口を開いた。 「き、昨日のことは、本当にすまなかった」 「……本当に私が何かをしてしまった訳では無いのですか」 「ああ。違う。誤解で」 オメガはふっと息を吐き、小さく笑った。 「それなら……よかったです。でしたらどうかもう、私のことはお気になさらないでください」  その笑みにリオールはかぶりを振る。 「気にする」 「……何故ですか?」 「一目見たときから、他のオメガとは……違う感覚がして」 「……?」 「隠さずに正直に言うのなら、……、」  そこまで言いかけて、ふいに言葉が止まる。  口に出すのが少し恥ずかしかった。  だが目の前のオメガは、ただ小さく首を傾げて、困惑しつつも優しく微笑んでいた。  言葉を待ってくれている。そのことに、リオールは胸が熱くなる。  今しかない。そう思って、リオールは真っ直ぐにオメガを見つめた。

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