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第10話

■■■  アスカと別れたリオールは、陽春が差し出した書類に目を落としながらも、頭の中ではずっとアスカのことばかりを考えていた。  平然を装ってはいるが、書類の内容などまるで頭に入ってこない。  胸の奥では、さっき別れたばかりの彼への想いがまだくすぶっていて、心臓が落ち着く気配すらない。  あんなふうに、誰かに強く惹かれたのは初めてだ。  また会いたい。すぐにでも。  『番になってほしい』という願いに、彼が応えてくれるかどうかはわからない。  それでも、期待してしまう自分がいる。  もしも。もしも頷いてくれたなら。  あの透き通るような白い肌に映える、美しい宝石を贈りたい。  彼のためだけに誂えた、上質な衣も。  想いが浮かぶたび、胸が高鳴る。  普段は子供らしからぬ無表情で、どこか醒めた目をしているリオールだが、今は珍しく口元にうっすらと笑みを浮かべていた。  その様子に、傍に控える陽春も、ほっとしたように柔らかな目を向ける。 「気が早いかもしれぬが……アスカへの贈り物を用意したい。宝石商を呼べ」 「承知しました」  書類を手放し、窓の外へと視線を投げる。  空は晴れているが、心の中はそれ以上に晴れやかだった。  どうしてもアスカが欲しい。  彼を幸せにしたい。世界で一番に。  困惑しながらも見せてくれた、あの柔らかい笑みに心を奪われた。  次は、もっと楽しそうな、嬉しそうな顔を見せてほしい。 「……殿下」  不意に掛けられた声に、現実へと引き戻される。  振り返ると、陽春がどこか憂いを含んだ表情で立っていた。 「陛下がお呼びです」 「……ああ、すぐに行く」  小さく息を吐き、身なりを整えると、リオールは静かに部屋を後にした。

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