10 / 207
第10話
■■■
アスカと別れたリオールは、陽春が差し出した書類に目を落としながらも、頭の中ではずっとアスカのことばかりを考えていた。
平然を装ってはいるが、書類の内容などまるで頭に入ってこない。
胸の奥では、さっき別れたばかりの彼への想いがまだくすぶっていて、心臓が落ち着く気配すらない。
あんなふうに、誰かに強く惹かれたのは初めてだ。
また会いたい。すぐにでも。
『番になってほしい』という願いに、彼が応えてくれるかどうかはわからない。
それでも、期待してしまう自分がいる。
もしも。もしも頷いてくれたなら。
あの透き通るような白い肌に映える、美しい宝石を贈りたい。
彼のためだけに誂えた、上質な衣も。
想いが浮かぶたび、胸が高鳴る。
普段は子供らしからぬ無表情で、どこか醒めた目をしているリオールだが、今は珍しく口元にうっすらと笑みを浮かべていた。
その様子に、傍に控える陽春も、ほっとしたように柔らかな目を向ける。
「気が早いかもしれぬが……アスカへの贈り物を用意したい。宝石商を呼べ」
「承知しました」
書類を手放し、窓の外へと視線を投げる。
空は晴れているが、心の中はそれ以上に晴れやかだった。
どうしてもアスカが欲しい。
彼を幸せにしたい。世界で一番に。
困惑しながらも見せてくれた、あの柔らかい笑みに心を奪われた。
次は、もっと楽しそうな、嬉しそうな顔を見せてほしい。
「……殿下」
不意に掛けられた声に、現実へと引き戻される。
振り返ると、陽春がどこか憂いを含んだ表情で立っていた。
「陛下がお呼びです」
「……ああ、すぐに行く」
小さく息を吐き、身なりを整えると、リオールは静かに部屋を後にした。
ともだちにシェアしよう!

