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第11話

 国王がリオールを呼び出すのは、決して珍しいことではない。  それでも毎度、心のどこかがざわつく。胸の奥が冷たく引き締まり、呼吸が浅くなる。  きっと、それは『期待』の重さだ。  父である国王は、リオールの持つ並外れたアルファとしての資質を早くから見抜いていた。  その血の強さ、理性、感情に流されない冷静さ。  すべてを「王の器」として評価している。  まだ十四歳のリオールに、次期国王としての役目を担わせるには早すぎるという声もあるのだが、国王はそんな声を意に介すことはなかった。  だからこそ──少しの油断や、王らしからぬ振る舞いには容赦のない叱責が飛んでくる。  リオールはそんな父を、恐れているわけではい。  けれど、常に試されているという緊張がある。 「国王陛下にご挨拶申しあげます」  重厚な扉が開き、謁見所の中央へ進み出て、深く頭を下げる。  見上げれば、父王はいつものように玉座に腰掛けていた。どこか退屈げな目で、リオールを見下ろしている。 「皇太子よ」 「はい」 「オメガとの訓練を中止したと聞いたが」 「……はい」  短く答えたその瞬間、鋭く視線が刺さる。  王の声が、わずかに低くなった。 「──理由は何だ」  静かだが、空気を揺るがすような威圧感。  リオールは一瞬、言葉を選ぶのに迷った。  『感情』が理由だとは、正直に言っていいものか。  『惹かれた』から手を出せなかったなどと、この場で認めてしまっていいのだろうか。

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