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第14話

 リオールは真正面から王を見据えた。  その強い視線には決意と、怒りが込められている。  先ほどまでの少年らしさは微塵もなく、冷静な皇太子としての覇気が宿っていた。 「……わかりました。婚姻はいたします。ですが……もうこれ以上、アスカ殿に対してこのような乱暴なことはなさらないでいただきたい」  静かな声だった。  けれどその一言は鋭く、場の空気を切り裂く。  国王の眉が僅かに動いた。 「お前が逡巡しているようだったから、手を貸してやったまでだ」 「……」 「いいか、リオール。お前は次期国王だ。欲しいものには迷わず手を伸ばさねばならん。躊躇など、弱さでしかない」  冷たい声音と共に、上から降るような眼差しがリオールを射抜く。  リオールはそれでも目を逸らすことなく、その視線を受け止めた。  睨み返すように、気圧されることなく。  やがて、視線を逸らしたのは国王の方だった。  鼻で笑い、「興が醒めた」とだけ吐き捨てて、謁見所を後にする。  リオールはすぐに、未だに床に伏したままのアスカに目を向けた。  怯える背中にそっと手を添え、なるべく優しく声をかける。 「……すまない。もう大丈夫だ。立てるか」  肩が震えている。  アスカはゆっくりと顔を上げたが、その顔色は見るも無残に青ざめていて、唇もかすかに震えていた。 「リ、リオール様……」  掠れるような声でそう呼んだアスカは、立ち上がろうとしたのだが、その瞬間膝が力を失い、そのままリオールの胸に倒れ込んでしまった。 「申し訳ありません……っ!」  必死に体を離そうとするが、腕にも足にも力が入らない。  リオールは優しくその身体を支え、何の迷いもなく言った。 「いい。……部屋まで運ぶ。掴まっていなさい」  その声は、どこまでも穏やかだった。  怒りや焦りを押し隠し、アスカを安心させるように。  アスカは小さく頷くと、そっとリオールの首元に顔を埋めた。  見られている──いくつもの視線が背中に突き刺さる。  けれど、リオールの腕の中だけは不思議と温かくて、守られていると感じた。  その胸元で、アスカの震えはようやく少しだけおさまった。

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