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第15話

■■■  部屋を移し、用意された温かな茶を手にしたアスカは、深いため息を吐いてぐったりと椅子に凭れた。  とんでもない日になった。  思った以上に体に力が入らず、自分でも驚くほど疲弊しているのがわかる。  まさか、自分の身にこんなことが起こるとは。数日前の自分に教えてやりたかった。  あの日、お給金を貰って帰宅した時、家族が揃って玄関まで出迎えてくれた。  安堵に満ちた両親の笑顔と、抱きしめてきた腕の温もり。  彼らに手渡した給金を、まるで宝物でも扱うように大切に受け取ってくれて、アスカの胸も熱くなった。 「ありがとう、アスカ……」  何度も何度も繰り返されるその言葉に、アスカは「うん」と頷いて、肩を震わせながら二人を抱き返した。弟たちも次々に抱きついてきて、ああ、帰ってきて良かった、と心から思ったのだ。  それから数日、リオールの言葉がずっと胸に残っていた。 『番になってくれないか』  あの綺麗な瞳と声を思い出すたび、胸がそわそわする。  けれどやはり悩むのだ。  自分はただの平民であって、何の後ろ盾もない。それなのに彼の傍にいていいのかと。  そんなことを考えながら畑仕事をしていたある日、突然馬の蹄の音が轟いた。  静かなこの村には似つかわしくない音に、家族全員が身を強張らせた。  馬は目の前に止まり、そこから降りてきたのは鋭い目をした騎士だった。 「──貴殿がアスカ殿か」  鋭く睨むその視線に、アスカは咄嗟に膝をついた。家族もそれに倣い、地面に額をつける。 「国王陛下の勅命により、そなたを王宮へ召喚する。今すぐ参れ」 「……え?」  あまりに突然で、理解が追いつかない。 「ど、どうして……?私は何も……」 「質問は許されん。抵抗するなら拘束する」  そう言われては、もはや逆らう術など無い。弟たちが不安そうに自分の服を掴み、「兄ちゃん……」と小さな声で縋るのが痛ましい。 「わかりました。……ただ、畑作業中で……少しだけ、着替えの時間をいただけませんか」 「却下だ。時間が無い」  腕を乱暴に引かれ、立ち上がらされる。  背後で「ああっ!」と母の悲鳴のような声が聞こえて、咄嗟に振り返ったアスカは、笑みを作って『大丈夫』と目で訴えた。  ──だが本当は、全身が震えていた。

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