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第17話

 その後、アスカは一度だけ実家に戻ることを許された。  王都から少し離れたその小さな家には、騎士の護衛をつけて送り届けられ、戸口を叩くと、心配そうな面持ちで家族が次々に顔を覗かせる。  アスカの無事な姿を見た瞬間、皆の顔が安堵と戸惑いで歪んだ。  居間に腰を落ち着けると、アスカは静かに事情を話し始めた。  家族には隠しごとをしたくなかった。  なので、国王から突然命じられた婚姻のこと、相手が皇太子であること、そして──番になるつもりで受け入れたが、本当にそうなるかはまだ自分にもわからないこと。すべてを正直に語った。  両親は顔を見合わせ、絞り出すように言った。  「どうして……どうしてお前が、そんなことに巻き込まれなければならないんだい……」  その声には、怒りでもなく責める色でもなく、ただただ深い悲しみが滲んでいた。  それでもアスカは、不思議と救われたような気持ちになっていた。  自分はこの家族に、疑いもなく愛されている。それがひしひしと伝わってきて、だからこそ胸の奥が静かに温まった。  リオール様は、父である国王に、こんなふうに愛されてはいないのだろう。  気づいてしまったその事実は、胸に棘のように残る。  あの冷たい視線、息子の心を踏みにじるような振る舞い。  あれが親であるとは、どうしても思えなかった。  その晩、家族と過ごした時間はかけがえのないものだった。食卓には、アスカの好きな料理が並び、弟たちは普段以上にくっついて離れなかった。  父は何も言わずにアスカの背を撫で、ただ「気をつけて行っておいで」とだけ言ってくれた。  寂しさと嬉しさが綯い交ぜになり、涙が出そうになるのを何度も堪えた。  こんな日々が、少しでも長く続けばよかったのに。

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