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第18話
しかし、朝になれば別れの時は容赦なくやってきた。
家の前に停められた立派な馬車が、アスカを再び王宮へと連れ戻す。
弟たちの手がアスカの服の裾を握りしめ、「行かないで」と言いたそうに口をぎゅっと結んでいた。母の目には涙が滲み、父は強く手を握ってきた。
名残惜しさに胸が締めつけられながらも、アスカはそれでも振り返らず、馬車へと足を進めた。
この試練を乗り越えることが、家族を守る唯一の方法だと思ったから。
王宮に戻るとリオールがどこか寂しげな表情を携えて迎え入れてくれた。
どうやらアスカがいない間に「婚姻する」と自ら国王に伝えたらしい。
リオールは「勝手にしろ、と仰られた」と、どこか痛ましげに笑った。
エーヴェル国の法律では、婚姻が認められるのは成人してからである。
もちろん、国王陛下がそれを知らないはずがない。知っていて、なお陛下はあのような強引な手段を取ったのだ。
戯れにも似た支配の行為はまるで、自分の力を見せつけることそのものが目的だったかのようにも感じる。
きっと、リオールもその意味を悟っていた。その上で、あの父に抗うことができなかったのだ。
幼い頃からの重たい圧力が、彼をそうさせているのだろう。
アスカは王宮の端にある宮で仮住まいすることとなった。
与えられた部屋は、実家とはまるで異なる世界だ。
広く、美しく、絢爛で──けれどその豪奢さは、むしろアスカにとって居心地の悪さを感じさせた。
高価な香油の香り、絹の寝具に、使い方も分からない道具。
すべてが「場違いだ」と無言で告げてくる。
控えていたのは、侍女として宛てがわれた清夏 という若い女性だった。淡い灰色の瞳に感情の無い表情で、アスカのわずかな荷物を淡々と扱い、必要最低限の言葉しか発しない。
「ご用があれば、いつでもお申し付けくださいませ」
その声に、温もりはない。
形式的な挨拶だけを残して、再び黙り込むその姿に、アスカは無言の緊張感をひしひしと感じた。
──歓迎されては、いないな
新しい環境に敵か味方かもわからない人々。
誰にも頼れない孤独の中で、アスカはひとり、深く息を吸った。
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