25 / 207
第25話
「──よく、耐えたな」
リオールの声が、少しだけ穏やかになる。
それに気がついたアスカは遂に泣きそうになって、それでもグッと目に力を入れて耐えた。
「そなたがここに居るのは、私が選んだからだ。誰にも、そなたを否定させるつもりはない」
けれど、いよいよ涙が溢れていく。
リオールから渡された言葉は、アスカの暗くて重たくなった心に光を与えるものであった。
アスカは小さく唇を噛みしめ、深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
リオールはそれ以上は何も言わずに、静かに部屋を出ていった。
いつの間にかヴェルデも居なくなっており、心細さに「清夏」と小さく侍女の名前を呼ぶ。
すると現れたのは薄氷だった。
「清夏は席を外しております。如何なさいましたか」
思っていた人物とは違い、アスカは少し戸惑った。
というのも、薄氷とは数回しか話したことがない。その上、いつも能面のような表情をしていて、清夏以上に何を考えているのかが分からないからだ。
「……わ、私は、どうすれば良いのだろうか」
それでも、やはりアスカは困っていた。
指導者が居なくなった今、アスカにはできることが無い。
「特にございません」
「……」
そうはっきりと言われてしまい、顔を曇らせた。
ここには存在意義がないように思えてしまう。
「……。アスカ様は、何かしてみたいことはございませんか」
そんなアスカに手を差し伸べるかのように、薄氷は問い掛けた。
「してみたいこと……?」
「はい。王宮に来られてから、お住まいの外に出たことは無いのではありませんか」
「……無い、です」
「それでは、どこかに散策に向かいますか?」
「……」
それには少し興味がそそられた。
ずっと住まいに篭もりっぱなしで、王宮の様子をあまり知らない。
けれど、こんなにも見下される平民が、堂々と王宮内を歩くのも憚られてしまう。
ともだちにシェアしよう!

