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第25話

「──よく、耐えたな」  リオールの声が、少しだけ穏やかになる。  それに気がついたアスカは遂に泣きそうになって、それでもグッと目に力を入れて耐えた。 「そなたがここに居るのは、私が選んだからだ。誰にも、そなたを否定させるつもりはない」  けれど、いよいよ涙が溢れていく。  リオールから渡された言葉は、アスカの暗くて重たくなった心に光を与えるものであった。  アスカは小さく唇を噛みしめ、深く頭を下げる。 「ありがとうございます」  リオールはそれ以上は何も言わずに、静かに部屋を出ていった。  いつの間にかヴェルデも居なくなっており、心細さに「清夏」と小さく侍女の名前を呼ぶ。  すると現れたのは薄氷だった。 「清夏は席を外しております。如何なさいましたか」  思っていた人物とは違い、アスカは少し戸惑った。  というのも、薄氷とは数回しか話したことがない。その上、いつも能面のような表情をしていて、清夏以上に何を考えているのかが分からないからだ。 「……わ、私は、どうすれば良いのだろうか」  それでも、やはりアスカは困っていた。  指導者が居なくなった今、アスカにはできることが無い。 「特にございません」 「……」  そうはっきりと言われてしまい、顔を曇らせた。  ここには存在意義がないように思えてしまう。 「……。アスカ様は、何かしてみたいことはございませんか」  そんなアスカに手を差し伸べるかのように、薄氷は問い掛けた。 「してみたいこと……?」 「はい。王宮に来られてから、お住まいの外に出たことは無いのではありませんか」 「……無い、です」 「それでは、どこかに散策に向かいますか?」 「……」  それには少し興味がそそられた。  ずっと住まいに篭もりっぱなしで、王宮の様子をあまり知らない。  けれど、こんなにも見下される平民が、堂々と王宮内を歩くのも憚られてしまう。

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