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第31話

■■■  アスカからの問いには、容易に答えられるものではなかった。  答えとしては――生まれて初めて、心から求めた相手がアスカだった。なのだが、ただ、それを言葉にして伝えたところで、理解してもらえる自信はない。 「私は、幼い頃から──ずっと一人だった」 「ぁ……」  けれど、少しでも自分の心が伝わってほしいと願い、リオールは口を開いた。 「知っての通り、我が父はこの国の王だ。ゆえに私は、幼い頃から感情を制御しろと教え込まれてきた。常に『王たる者』として生きよと」  今思えば──本当は、子供らしく遊びたいと思っていたのだと思う。  だが、それは赦されなかった。あれがしたい、これが欲しい、そんな願いはことごとく否定され、ただ『王であるための術』だけが与えられた。  次第に、何かを欲すること自体が無意味に思えてきた。  楽しさや喜び、そういった明るい感情に触れることもなくなって。  そして完全に、心から“感情”が失われたのは──間違いなく、母上が王宮を去ったあの日だった。  正妃ではなかった母は、アルファとしての資質が強すぎるリオールを産んだことで、他の妃たちから激しい嫉妬と憎しみを受けた。  その果てに心を病み、王宮を去らざるを得なかったのだ。  たまに顔を合わせることのできた優しい母。  それを失ったのは、自分のせいだと、リオールは今もどこかで思っている。  ──自分なんかを産まなければ。  母上は王宮で、何不自由なく穏やかに暮らしていたはずだった。  自分のような子供がいなければ、酷い仕打ちを受け、心を壊すこともなかった。 「……そう思いながら生きているうちに、──心が渇いてしまった」 「……」  従者に用意させた椅子に向き合って座り、リオールは淡々と語る。  自らの過去を、傷の奥を、隠すことなく──アスカにだけは。

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