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第34話
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「そなたは、私の心を動かした。あれは偶然なんかじゃない。……運命だとは言わない。けれど、私はそなたを選びたいと思ったんだ」
リオールのその言葉は、まるで暖かな雨が乾いた地に染み渡るように、アスカの胸へと沁み込んでいった。
誰かに『選ばれる』こと。
誰かの『心を動かす』存在として、認められること。
そんなこと、自分には一生無縁だと思っていた。
「そなたが家族を想うように、私もそなたを想っている。一方的かもしれないが……それでも私は、そなたに傍にいてほしい」
そっと囁かれるようなその声に、アスカの心が揺れる。
──こんなにも、まっすぐに求められたことがあっただろうか。
オメガであるというだけで、ずっと負い目を感じてきた。
家族に申し訳なくて、存在自体が厄介だと、自分でも思ってしまっていた。
未来に期待することもできず、夢を見ることすら、どこかで諦めていたのに。
そんな自分に手を差し伸べてくれたのが、リオールだった。
高貴な身にありながら、分け隔てなく見てくれて、守ろうとしてくれた。
その温もりに、いつしか心が惹かれていった。
──できることなら、自分も彼を守りたい。
ただ庇護されるだけの存在ではなく、彼にとっての「力」になりたい。
けれど。
彼の傍にいるということは、これまで以上の覚悟がいる。
これまで以上に、理不尽な声を浴びることになるだろう。
それでも。
彼がそれでも傍にと望むのなら。
「……本当に、わたしが居ても、いいんですか」
恐る恐る口にした問いに、リオールは何の迷いも見せずに頷いた。
「いいとも。むしろ──居てほしい」
その笑顔は静かで、けれどどこまでも真剣だった。
──ああ、この人は本当に、必要だと言ってくれる。
胸の奥がきゅっと締め付けられ、同時に熱がじんわりと広がっていく。
指先は緊張で冷たかったけれど、心だけは確かに温かかった。
「……あなたが望むのであれば、ここに居ます。──ここで、あなたと共に生きたい」
その言葉は、小さく震えながらも、確かな決意を宿していた。
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