39 / 207
第39話
まぶたの裏に、淡い光が差し込んできた。
アスカはゆっくりと目を開ける。
まだどこか夢のなかにいるような心地で、しばし天井を見つめた。
──あれ。
見慣れない天蓋。柔らかな寝具。綿の香り。
それらが、徐々に現実を引き戻す。
次の瞬間、はっとして上体を起こした。
「……っ」
ここがどこなのかを思い出し、アスカは急に胸の鼓動が早まるのを感じた。
そうだ、昨夜、あのまま……殿下の寝殿で──。
頬がじわりと熱を帯びてゆく。
そんなところで気安く眠ってしまっていた自分が信じられず、思わず布団をきゅっと握りしめた。
「わ、私……っ、なんてことを……!」
昨夜の記憶が、途切れ途切れに蘇る。
寒さに震えていた自分に、リオールがそっと手を差し出してくれて。
そして、眠るまで傍にいると仰ってくださった。
アスカはそっと横を見やる。
そこには、変わらず穏やかな寝息を立てるリオールの姿があった。
椅子に凭れたまま、少し身を傾けて眠っている。
その顔には疲労の色が滲んでいて、胸がきゅうっと痛んだ。
──本当に、ずっと……。
アスカはそっと布団を押しのけ、なるべく音を立てぬように体を動かしたのだが、その気配に気づいたのか、リオールがふいにまぶたを開いた。
「……もう起きたのか」
掠れた、けれどどこか安心したような声だった。
「あっ……も、申し訳ございません……っ、起こしてしまって……!」
慌てて頭を下げたアスカに、リオールはゆっくり首を横に振る。
「構わぬ。……そなたがよく眠れたのなら、それでいい」
その穏やかな声音に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
アスカは俯いたまま、小さく呟いた。
「……殿下こそ、お身体を冷やしてしまったのでは……? 私のために……」
「それは、私が望んだことだ。謝ることではない」
変わらぬ口調。
けれど、そこに込められた優しさに、アスカの胸がふわりと揺れた。
「……ありがとうございます」
そう零れた言葉に、リオールは柔く微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!

