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第39話

 まぶたの裏に、淡い光が差し込んできた。  アスカはゆっくりと目を開ける。  まだどこか夢のなかにいるような心地で、しばし天井を見つめた。  ──あれ。  見慣れない天蓋。柔らかな寝具。綿の香り。  それらが、徐々に現実を引き戻す。  次の瞬間、はっとして上体を起こした。 「……っ」  ここがどこなのかを思い出し、アスカは急に胸の鼓動が早まるのを感じた。  そうだ、昨夜、あのまま……殿下の寝殿で──。  頬がじわりと熱を帯びてゆく。  そんなところで気安く眠ってしまっていた自分が信じられず、思わず布団をきゅっと握りしめた。 「わ、私……っ、なんてことを……!」  昨夜の記憶が、途切れ途切れに蘇る。  寒さに震えていた自分に、リオールがそっと手を差し出してくれて。  そして、眠るまで傍にいると仰ってくださった。  アスカはそっと横を見やる。  そこには、変わらず穏やかな寝息を立てるリオールの姿があった。  椅子に凭れたまま、少し身を傾けて眠っている。  その顔には疲労の色が滲んでいて、胸がきゅうっと痛んだ。  ──本当に、ずっと……。  アスカはそっと布団を押しのけ、なるべく音を立てぬように体を動かしたのだが、その気配に気づいたのか、リオールがふいにまぶたを開いた。 「……もう起きたのか」  掠れた、けれどどこか安心したような声だった。 「あっ……も、申し訳ございません……っ、起こしてしまって……!」  慌てて頭を下げたアスカに、リオールはゆっくり首を横に振る。 「構わぬ。……そなたがよく眠れたのなら、それでいい」  その穏やかな声音に、胸の奥がじんわりと熱くなる。  アスカは俯いたまま、小さく呟いた。 「……殿下こそ、お身体を冷やしてしまったのでは……? 私のために……」 「それは、私が望んだことだ。謝ることではない」  変わらぬ口調。  けれど、そこに込められた優しさに、アスカの胸がふわりと揺れた。 「……ありがとうございます」  そう零れた言葉に、リオールは柔く微笑んだ。

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