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第42話

 優しく丁寧に教えてくれた清夏。  アスカの中で、彼女の印象が少し変わった。 「清夏さんは、私のことがお嫌いですよね」 「……」 「それなのに、こうして優しく教えてくださったこと、感謝します」  アスカが感謝を伝えると、清夏は黙り込み、しばし考えたのちに口を開いた。 「……私には、アスカ様が何を仰っているのかわかりません」 「えっと……」 「私は貴方様に『嫌いだ』とお伝えしたことがありましたか。それであれば申し訳ございません。記憶にございません」  小さく頭を下げる清夏の姿に、アスカは驚き、慌てて否定した。 「そう言われたことはありません! ただ、そうなのだろうと思って」 「……アスカ様は誤解されています。私は貴方様を嫌ってなどおりません」 「でも……」 「私の顔つきが固いせいで、そう思わせてしまったのかもしれません。──これは、私がここで生き残るために身に付けたものです」  清夏にも、語りたくない事情があるのだろう。  アスカはそれを察し、そっと視線を床に落とした。 「決して、嫌いではありません。むしろ私は、アスカ様のお力になりたいと思っておりますよ」 「!」  うそだ、と否定しかけたが、寸前で言葉を飲み込む。 「本心です。あの孤独な皇太子殿下のお心の支えになっておられる。私は、殿下が幼い頃よりここにおります。あの方には幸せになって頂きたい。──そのためには、貴方様が必要不可欠だと思っております」  清夏と視線が交わる。  その瞳の奥に、強い意志が宿っている──アスカは、そう初めて感じたのだった。

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