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第43話
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日々の生活は、思いのほか忙しかった。
朝は日が昇ると同時に起床し、身支度を整え、礼儀作法や言葉遣いの講義を受ける。
午後は歴史や地理、王宮の構造と制度について学ぶんだ。
夜には、清夏が用意してくれた書物に目を通し、眠るまで筆写の練習をする。
時折リオールを誘って夜の散策に出掛けたりすることもある。
執務で忙しいなかでもリオールはアスカを蔑ろにすることはなく、それどころか「不自由はないか」といつも気遣ってくれるのだ。
日々、覚えることばかりだったが、不思議と苦ではなかった。
無表情がちな清夏に「ご立派になられましたね」と笑われたときは、思わず頬が熱くなった。
できることが少しずつ増えていく。
この積み重ねが、いつかリオールを支えられる力になるのだと思えば、益々やる気が湧く。
──そんなふうに、思えるようになったのは、王宮に来て二ヶ月が過ぎた頃だった。
しかし、その頃からだ。
アスカの身体に、得体の知れない異変が起こり始めたのは。
まずはひどく疲れやすくなった。
講義を受けている間も、体が重たくて、眠気も強いことが多く、途中で止めてもらうこともしばしば。
食欲も湧かなくなってきて、清夏と薄氷に心配をかけてしまう。
その報告を聞いたのか、リオールもわざわざ訪ねてきては、食べたい物は無いかと気にかけてくれる。
彼のあたたかな掌が背中を撫でるたび、不思議と体が軽くなる気がした。
そのうち、清夏と薄氷が訝しげな表情をすることが多くなり、二人がなにやら小声で話をしているところもよく見かける。
──アスカは自分の体に降りかかるその症状に、心当たりがないわけではなかった。
これまでにも何度か経験したことのある、オメガとしての発情期。
けれど、家族のいる実家で過ごすそれと、王宮という特殊な空間で迎えるそれとは、全く意味合いが違っていた。
気を抜けば誰かの目がある。気を張れば体が持たない。
しかも今回は、これまでと比べものにならないほど発情期の前に起こる症状が重く、体の奥底から何かが沸き立つような熱に、アスカは日毎に蝕まれていった。
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