45 / 207
第45話
アスカの発情期は、隔離されてから間もなく本格化した。
部屋の空気が、重たい。
水を飲んでも喉が渇き、肌が張り詰めるように熱い。
布団にくるまることさえ苦しいのに、一人きりの夜が、ひどく心細かった。
これは、知っている感覚のはず。
発情期は何度か経験してきた。
家では家族が気遣ってくれたし、薬でやり過ごすこともできた。
それなのに、今回は違う。
薬は意味をなさず、誰の気配もしないこの部屋では、欲望も恐怖も、自分一人で飲み込むしかない。
身体の奥で、熱が蠢いている。
呼吸は浅くなり、どれだけ体を丸めても、火照りからは逃げられない。
──誰か、そばにいて。
不意に浮かんだその願いに、アスカは唇を噛みしめた。
誰かに寄り添ってもらいたい。背中をさすって、優しく言葉をかけてもらいたい。
それがリオールだったら、どんな顔で自分を見てくれるだろう。
きっと──あたたかく、柔らかく、そして──
「……っ、だめだっ!」
こんな姿を、見せたくない。
汗で濡れた襟元に震える手。
どうしようもない欲求に耐えるだけの情けない自分。
彼には、こんな姿、知られたくない。
まだ彼はたったの十四歳。
こんなあられもない自分は絶対に見せたくない。
けれど、どうしても、心がすり減っていく。
静まり返った部屋に、浅く、熱を含んだ息だけが響いていた。
伸ばした手の先に、誰もいない。
名前を呼びたくなる衝動を、何度も喉の奥で押し殺して──アスカは、ただ耐え続けていた。
ともだちにシェアしよう!

