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第45話

 アスカの発情期は、隔離されてから間もなく本格化した。    部屋の空気が、重たい。  水を飲んでも喉が渇き、肌が張り詰めるように熱い。  布団にくるまることさえ苦しいのに、一人きりの夜が、ひどく心細かった。  これは、知っている感覚のはず。  発情期は何度か経験してきた。  家では家族が気遣ってくれたし、薬でやり過ごすこともできた。  それなのに、今回は違う。  薬は意味をなさず、誰の気配もしないこの部屋では、欲望も恐怖も、自分一人で飲み込むしかない。  身体の奥で、熱が蠢いている。  呼吸は浅くなり、どれだけ体を丸めても、火照りからは逃げられない。  ──誰か、そばにいて。  不意に浮かんだその願いに、アスカは唇を噛みしめた。  誰かに寄り添ってもらいたい。背中をさすって、優しく言葉をかけてもらいたい。  それがリオールだったら、どんな顔で自分を見てくれるだろう。  きっと──あたたかく、柔らかく、そして──  「……っ、だめだっ!」  こんな姿を、見せたくない。  汗で濡れた襟元に震える手。  どうしようもない欲求に耐えるだけの情けない自分。  彼には、こんな姿、知られたくない。  まだ彼はたったの十四歳。  こんなあられもない自分は絶対に見せたくない。  けれど、どうしても、心がすり減っていく。  静まり返った部屋に、浅く、熱を含んだ息だけが響いていた。  伸ばした手の先に、誰もいない。  名前を呼びたくなる衝動を、何度も喉の奥で押し殺して──アスカは、ただ耐え続けていた。

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