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第46話
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アスカが発情期に入ったとの報せは、すぐにリオールの耳に入った。
リオールは執務を放り出し、今すぐにでもアスカの元へ駆け出そうとしたのだが、「お待ちくださいっ!」と陽春に止められる。
「なんだ、なぜ止める!」
「いけません、殿下。何の御薬もお飲みになられておりません。このままアスカ様の元へ向かわれては、きっとお心の制御はつきませんっ!」
陽春が必死にリオールを止める。
リオールは、彼の言うことも一理あると理解した。
そもそも、初めて出会った時にアスカの僅かなフェロモンを嗅いで『噛みたい』と思ったくらいなのだ。
いま本格的な発情期を迎え、フェロモンを醸し出しているアスカに、無防備に近付くのは危ない。
「……抑制剤を持ってまいれ」
「はい、ただいま」
胸の中を焦燥感が満たすが、リオールは何度か息を吐いて、ひとまず『皇太子』としての姿を守ることにした。
「薬が効けば、アスカの元へ行く」
「報告によれば、症状がかなり重たいと聞いております。どうかアスカ様を傷つけるようなことだけはなさいますな」
「……、わかっている」
わかってはいるが、どうなるかは誰にも予想ができない。
薬が効くまでの数刻。
この数刻で、アスカがどれほど苦しむのかと思うと、すぐにでも彼の傍に向かいたい。
アスカは今、一人で──。
ギリギリと拳を握る。
薄皮がプツッと破れ、血が滲んだ。
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