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第47話
抑制剤を服用してから、すでに一刻は経っていた。
医師の診たてでは、もう効いているはずだという。
それを聞いた途端、リオールは躊躇なく席を立った。護衛を伴うようにと陽春は言ったが、それは拒否する。
アスカが今、フェロモンを放っているというなら、なるべく人数は少ない方がいい。
扉を開けた瞬間、熱気を孕んだ風が肌を撫でた。
昼を過ぎた庭には初夏の陽射しが容赦なく降り注ぎ、湿った空気が服に貼りつく。
けれど、心の焦りに比べれば、こんな暑さは何でもなかった。
リオールは足早に、アスカが隔離された離れへと向かう。
人目を避けるように配されたその小宮の前には、すでに清夏と薄氷が立っていた。
二人とも、いつも通りの静かな顔でリオールを迎える。
けれど、どこか張り詰めた空気が、門扉の前に立つ彼の足を止めさせた。
「……会いに来た。案内してくれ」
リオールの声は、自分でも驚くほど静かだった。
清夏は軽く一礼した後、目線だけで薄氷に合図を送る。
薄氷は静かに小宮の中へと消えていった。
沈黙が落ちる。
時間にしてわずか数分だったが、リオールにはひどく長く感じられた。
──そして、薄氷が戻ってくる。
扉を閉め、リオールの前に立った彼は、少しだけ言い淀んだ。
「……アスカ様は、今はお会いになれないと」
その言葉が、まるで凍った刃のように胸の奥に突き刺さる。
「……そう、か」
それ以上、何も言えなかった。
怒りでも悲しみでもなく、ただ心の奥にぽたりと穴が開くような、そんな感覚だった。
会えないというのは、それは、信頼されていないということだろうか。
それとも、ただ……幼すぎるから?
「……わかった。様子はまた報せてくれ」
そう言って踵を返したとき、吹き抜けた風が背中をなぞった。
あたたかいはずの風が、ひどく冷たく感じた。
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