48 / 207

第48話

 リオールは悲しみに昏れる胸中を隠すため、心を削ぎ落としたかのような表情で王宮の庭を歩いていた。  ──これ程悲しいと思うのは、母上が王宮を去った時以来か。  番になりたいと思う相手に、拒絶されることが、こんなにも辛いこととは。  リオールは執務に戻る気にもなれず、王宮内の大きな池を眺める。  水分を多く含んだ空気が、気持ちをも憂鬱にさせていく。 「──殿下」  陽春がリオールの傍に駆け寄る。  声に反応して振り返ったリオールは、陽春を見て冷たく、醒めた笑みを零した。 「私は、皇太子であるのに、アスカにとってはただの子供に過ぎないのかもしれない」 「殿下……」 「こんなにも早く……大人になりたいと思ったことは、無いぞ」  こればかりはどうしようにも解決ができない問題だった。    しばらくその場に留まっていたリオールだが、陽春が再度声を掛けた。 「殿下、ひとまず、戻りましょう。ここに居ては暑さで殿下が倒れてしまいます」 「……」  陽春は額にじんわりと汗をかいていた。  自分一人であれば気にはしなかったが、他の者にまで迷惑を掛けるのは不本意だ。 「──わかった。アスカの従者に、くれぐれも報告を怠るなと伝えておけ」 「かしこまりました」  陽春が頭を下げる。  それを一瞥したリオールは、執務に戻るために踵を返した。    

ともだちにシェアしよう!