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第49話
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発情期になった日。
リオールがアスカを見舞いに来てくれたと薄氷から伝えられた時、アスカは彼に会える喜びと同時に、未だ未成年の彼に手を伸ばすなんてことはしてはいけないと理性が働き、拒絶した。
会えない、と薄氷に言えば、彼はそれをリオールに伝えてくれたようで、「帰られました」と教えられる。
一人の寂しさに心が冷えていく。
無意識に涙が零れ、布団を濡らした。
□
発情期が最も強く現れる三日目のこと。
日も高く昇ったころ、部屋の扉が控えめにノックされた。
「──失礼いたします。お身体の具合をお伺いに参りました」
現れたのは、アスカの見知らぬ男だった。
年若くはないが、整った所作とどこか貼り付けたような微笑み顔に乗せている。肩幅が広く、動きは静かで隙がない。けれどその整いすぎた物腰が、異様に冷たく感じられた。
「……どなたで、しょうか」
アスカは寝台の中からかすれた声を出した。熱に浮かされ、視界は揺れている。けれど、その男の姿だけは妙に鮮明だった。
「宦官として、王より命を受け、参上いたしました。少しでもお楽になれるよう、お手伝いを──」
その一言で、心臓が跳ね上がった。
王からの命令──そして、『宦官』。その意味を理解した瞬間、アスカの全身に走ったのは、本能的な拒絶だった。
「か、帰って、ください……!」
口が乾いて、舌が上手く動かない。それでも必死で声を上げた。
けれど宦官は構わず、静かに部屋に足を踏み入れる。二人の間には何の隔たりもない。
密室がアスカを追い詰めていく。
「どうか落ち着いてください。苦しみを軽くする処置です。これは、陛下の──」
「い、やだ……来ないでください……っ、お願い……!」
宦官は歩を止めない。まるで機械のように、ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
アスカは布団を引き寄せ、体を小さく丸めた。
震えが止まらない。手足が冷たい。けれど、熱い。
喉が苦しくて、息が上手く吸えない。
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