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第50話
──だれか、たすけて。
「怖がらなくても大丈夫です。私にお任せ下さい。きっとお身体が楽になりますよ」
「嫌だ……っ、やめて……っ!」
宦官の手が、布団の端をそっと持ち上げる。
アスカは反射的に体を捩り、それを押し戻そうとしたが、指先の力が入らなかった。
寝間着の袖が、滑るように肩から落ちていく。冷たい空気に晒された肌が、ぶわりと粟立つ。
「触らないで……! やめて……やめてください……ッ!」
けれど宦官の手は静かに動き、袖口から覗くアスカの白く細い腕を指先でなぞった。
ぞわりとした感覚が皮膚を這い上がる。
その指先には熱がなく、どこまでも淡々としていたのに、それが気持ち悪い。
「少しだけです。力を抜いて。すぐに終わりますから──」
言葉とともに、彼の指がアスカの腹部へと滑り下りる。
薄布越しに撫でられた感触に、思わず腹筋が震えた。服の下で、体が拒絶の痙攣を起こす。けれどそれすら伝わらないほど、彼の動きは静かで、冷たい。
足先にまで血の気が引いていく。身体は熱に浮かされているのに、内側から凍るような感覚がする。
脚が痺れて、逃げようとしても動かない。
「い、いや……っ、お願い……ほんとうに……やめてっ」
宦官は返事をしなかった。ただ、淡々と脚元へと手を伸ばしてきた。
足首をなぞる指が、布越しに膝へと這い上がる。
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