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第52話

 そして、その直後。  部屋の前に立っていた薄氷が、すれ違いざまに宦官の濡れた肩と無表情を目にし、瞬時に異変を察知した。  突然宦官がやってきた時に、薄氷も清夏も、彼を通すのを拒んだ。  だがしかし、『王命』だと言われてしまうと何もすることが出来ず、悔しさを滲ませながら道を開ける。  清夏はすぐさまリオールの元へ報告に向かったのだが、ここから彼の居る政務宮は遠く、間に合う確率は極端に低い。  しかし、それでも祈るしか無かった。 「……!」  薄氷は何も言わずに、扉を押し開けて中へと駆け込む。 「アスカ様……!」  その声に、アスカはびくりと肩を震わせる。  寝台の中、乱れた髪と汗に濡れた額、割れた水差しの欠片。  そして、恐怖に濁ったままの瞳が、薄氷を見つめていた。 「……も、申し訳ございません──!」  薄氷はすぐさまアスカの傍へと駆け寄り、寝台の傍で平伏した。  ──主にそのような顔をさせてしまうなんて……!  自責の念に駆られる薄氷だったが、アスカは彼の姿を目にしてポロポロと涙を零す。  零れ落ちた涙に、薄氷は目を細めると、声を殺して怒りに震えた。  ──陛下は、なんということを……っ!  王宮で初めて過ごす発情期のさ中、普段よりも精神状態が不安定な時に、このような暴挙に出るとは。  ──恐怖に染る主のお心を癒せるのは、殿下しかいない。  薄氷は一刻も早くリオールがこの場に来ることを待った。

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