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第58話

■■■  まぶたの奥で、白い光が揺れている。  ゆっくりと目を開ける。  ──ああ、ここは……  体が重い。意識の縁がまだ掴めずに、世界に浮かんでいるようだった。  喉がからからに乾いていて、呼吸をするたびに胸の奥が痛む。  何があったんだっけ……?  思い出そうとした瞬間、脳裏に焼きついた映像が不意に蘇った。  びくりと体が震える。  怖い。まだ、怖い。  何もされなかったはずなのに、胸の奥で恐怖の残滓が消えていない。  知らない誰かに体を暴かれるかもしれなかったと思うと涙が滲む。  悔しさと、惨めさ。それに、どうしようもない不安が混ざって、喉が詰まる。 「──アスカ様」  そっと名前を呼ばれて、顔を向ける。  そこには少し目元を赤くした薄氷がいた。 「目を覚まされたのですね」  声が優しかった。  アスカはわずかに頷こうとして、しかしそれすらも重く、代わりに唇を震わせるだけに終わってしまう。 「殿下から、お伝えするようにと、言づてを預かっております」  薄氷は、少しだけ言葉を選ぶように、そっと目を伏せてから続けた。 「──『私は、どのようなアスカも、愛している』と」  その瞬間だった。  堰が、切れたようだった。  ずっと我慢していた。強くあろうとした。  情けない姿を、リオールには見せたくなかった。  けれど、その一言が、すべてを溶かす。  ぽたり、ぽたりと、涙が頬を伝い、止まらない。  一度あふれたそれは、止め方を知らないみたいで。  それでも、唇を震わせながらも、言葉を紡ぐ。 「……会いたい……リオールさまに……」  アスカの言葉に、薄氷は確りと頷く。 「……すぐ、お伝えします」  手を、繋いでほしい。  許されるなら、抱きしめてほしい。  ただ、彼の体温を感じたかった。

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